朝倉かすみ 『ともしびマーケット』

朝倉かすみ 『ともしびマーケット』 講談社 (2009)

AsakuraKasumi_TomoshibiMarket.jpg
北海道のとある町のスーパーマーケット「ともしびマーケット鳥居前店」をめぐる九つの物語。ひとつひとつ登場人物は違うけれど、他の話で出てきた登場人物がちらっと顔を見せたりする。だがそれは連続しているというほどでもないし、リンクしているといえばそうなんだけど、というほどのつながり具合。

ともしびマーケットでしょっちゅう見かける、ネスカフェの瓶を大事そうに抱えているおばあさんを尾行する第一話「いい日」。
ともしびマーケットの精肉部門に勤務する44歳独身女性が、同じ職場で働く無口な職人気質の男に淡い気持ちを寄せる第二話「冬至」。
14歳の少女がバレンタインデーをきっかけに同級生に告白しようとする大作戦を決行する第四話「ピッタ・パット」。
自分とは別れて暮らしていて、ともしびマーケットで勤務する父親を訊ねて来たものの、なかなか言い出せずにいる若い女性が主人公の第五話「232号線」。
夫と子供がいる32歳の女性が、ともしびマーケットで知り合った三人の学生たちの焼肉に合流する第八話「その夜がきて」。
そして、ああ、そうきましたか、と思わされる最終話。

第二話「冬至」には酒の話も出てくる。「酒の銘柄は国稀だ。北海道増毛町で製造している地酒の一種だ。むかしでいうところの二級酒をかのじょは好む。値段もさほど生意気ではないし、ラベルの色合わせがごくキュートだ。みかん色も、青も、赤も、折り紙の色をしている。まん真んなかに威風堂々『国稀』と筆書きしてある。/一口めがもっともおいしい。淡雪みたいにふわりと広がる。ふた口めで輪郭がたちあがり、み口めできゅっとしまる」なんてところにはもう、やられてしまいましたよ。

帯の宣伝文句には「胸のうちから、あたたかな、あかるいものが無尽蔵にわいてくる。このあたたかさをなんといおう。目には見えず、手で触ってたしかめられないこのものを。」などと書いてある。

たしかにそうなのだ。最終話までこぎつけて、たどり着くところはあたたかさで、作者の心持ちもおおむねそういうものなのだと思う。だけどこの本にはあたたかさだけではなくて、無類の切なさも入っている。その切なさがあってこそのあたたかさなのだろう。私(乙山)は第五話に切なさを感じた。


【付記】
● 「国稀」、ありましたよ。ホームページはこちらからどうぞ。いやいや、なんだかとても旨そうだ。かんじんの登場人物たちより、こういうところに目が行ってしまう乙山っていったい……

● 第一話「いい日」に「敷波智子はナチュレ恵派ですが、日替わりで安くなっていたのはブルガリアのほうでした」という箇所もあり、乙山はそうそう、と納得してしまいました。たしかに「ナチュレ恵」というヨーグルトはおいしいんです。

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「ともしびマーケット」朝倉かすみ

誰かの「いい日」に、ともしびを。たくさんの買い物客がうごめいています。みんなあんなに生きている。スーパーマーケットの白くあかるい照明にひとしく照らされている。たくさんの...

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あー情景が浮かびそう

なかなか味のある本ですね
確か、劇団ひとりさんの小説『陰日向に咲く』
もトラックバック的な物でしたが。

全てに関連、ノスタルジックな感情、明るすぎず、暗すぎず
淡々としている日常
その中にたくさんの想いが交錯している

という感じが読み取れます。好きな感じです。探してみます。
ワクワクv-237

Re:はちゃべえさん

はちゃべえさん、コメントありがとうございます。
劇団ひとり。
はちゃべえさんのコメントを読んで思い出しました。
「拝啓、僕のアイドル様」とか、印象に残っています。
作家の人が書いたわけではないのに、なにかいい感じなのです。
まずは図書館?
あ、ちがうか!

No title

乙山さん、
国稀、美味い酒ですよ。
HOBO、純米の辛いのがいっとう好き
です。でももっと好きなのは
ジャックダニエル。
木のこっぱみたいなブルースな
味がします。最近はDrストップ!
がははは


HOBO

Re:HOBOさん

HOBOさん、コメントありがとうございます。
「国稀」は初めて見ました。
それに、このへん(関西)では見かけたことがないのです。
旨い酒があると聞くと、とりあえず飲んでみるつもり!

ジャックダニエルズ。
香りがたまらなくいいんですよね。
本当は好きなんですが、もったいなくて、あまり飲んでいません。
小さなボトルがあったらいいんですけどね。

No title

先日は、ありがとうございました。
こちらにもトラックバックさせていただきました。
トラックバックお待ちしていますね。

Re: 藍色さん

藍色さん、こんにちは! コメント&トラックバックありがとうございます。

> トラックバックお待ちしていますね。

ではでは、早速トラックバックさせていただきますね。
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