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井上陽水 『9.5カラット』 (1984)

井上陽水 / 9.5カラット(1984)

InoueYosui_9point5.jpg
1. はーばーらいと
2. ダンスはうまく踊れない
3. TRANSIT
4. A.B.C.D.
5. 恋の予感
6. いっそセレナーデ
7. 飾りじゃないのよ涙は
8. からたちの花
9. ワインレッドの心



いま「懐かしい昭和」として思い出されるのはおそらく、1980年代以前の昭和の雰囲気なのであり、1980年代以後の昭和は、実感としては今と地続きになっているんじゃないかと思っている。ということは、1980年代を境にして日本の社会が大きな転換を迎えたということではないだろうか。

その時期、日本の社会は大衆消費社会に移行した。脱工業化社会とか後期(高度)資本主義社会などと呼んでもいいのかもしれないが、要するに多くの人が工業を軸とした産業にかかわるのをやめ、サービス業と商業に乗換えをした、ということだろう。そして多くの人が美味しいものや高級な衣服に目を向け始めた、グルメブームとデザイナーズブランドの時代。

どこか浮き足立ってふわふわした浮遊感みたいなものが1980年代にはあった(もちろん、そんな風潮には一切影響されない人もいただろう)と私(乙山)は勝手に思っているが、そんな社会の雰囲気にぴったりくるのが井上陽水の『9.5カラット』(1984)だったように思う。

もともと井上陽水自身が、つかみどころのない飄々とした雰囲気を持っている人で、それが彼の作る歌詞によく表れていると思う。要するに、何が言いたいのかよくわからん、という感じのする歌詞が多いのだ。ボブ・ディランのように言葉を重視して、言いたいことをはっきり言うよしだたくろう(吉田拓郎)と好対照だ。

どちらかといえば、よしだたくろうが言葉寄りの人で、井上陽水は音楽(感覚?)寄りとでも言えばいいのだろうか。だから周囲の人を見てもたくろう派と陽水派がけっこう分かれていて、熱い論争みたいなものを繰り広げていた。

『9.5カラット』は、井上陽水が他の歌手のために書いた歌詞や曲を自分で歌ったもので、自分のために書いたのは(6)のみ。よく知られたところでは(5)(9)は安全地帯、(7)は中森明菜がそれぞれ歌ってヒットしている。ウィキペディアに詳しい情報があるので気になる人は調べてみるといいだろう。

(3)はおそらく恋人と別れた女性が空港のトランジットで過ごした時間を切り取ったものと思えるが、よくわからん度(?)の高い、しかし雰囲気のある曲。(9)はふわふわした浮遊感や刹那的雰囲気がよく出ている。(4)はブルースだし、(8)はもう、演歌ですよ。でもそれが違和感なく前後の曲と溶け込んでいるところがすごい。

井上陽水はわりと高めのキーで、小田和正や徳永英明ほどではないけれど、透明感のあるヴォーカルだ。声になんともいえない魅力があるんだなあ。オリジナル歌手のヴァージョンもいいけれど、井上陽水のセルフカヴァーのほうが私は好きだ。


【付記】
● 『9.5カラット』ってやっぱりすごいなあ。改めて聴いてみると、ほんと捨て曲がないんですよね。歌詞はやはり何を言いたいのか、よくわからんなあというのがあるのですが、それこそが井上陽水なんだと勝手に思っています。

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tag : 井上陽水

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No title

初めまして!
飄々としながら存在感のある、まさしく大御所ですよねぇ・・・
私は佐野元春方面に流れてしまったのですが、時折聴く
井上さんの曲は妙に心地良かった記憶があります♪

こんばんわ。

その時代背景は実にわかります。
たとえば伝統ある紡績工場が閉鎖。その広大な跡地に流通業が群がった。大手チェーンストアです。
大阪の吹田だったかなあ、そんな跡地に音楽パレードを定期的にするショッピングモールが出現し話題に。視察に行った覚えがあります。
今はどうなっているやら・・・。知りませんか。
重工業から軽工業、そして流通業・サービス業とどんどん軽くなっていった時代ですね。

井上陽水、確かにつかみどころのないところがあります。
私は、彼の詩は嫌いではありません。
けっこうシュールぽい。
こんなことを聞いたことがあります。
陽水は歌詞を創る時、広辞苑をペラペラとめくる。ふっと気になる言葉に出会ったら、その言葉を軸に創造が広がっていくと。

拓郎も陽水もタイプが違うけど好きですね。
ただ、陽水は気持ちよく聴けるのに、歌うのは難しい曲が多い。
キーが高いせいだけではなさそうです。



Re:zumiさん

zumiさん、ご訪問&コメントありがとうございます。
ひょっとして、RSさんのところにいらっしゃってたのでは?
乙山はうっかり者なので、勘違いご容赦ください。

井上陽水はCMでさるお方の真似をしたとかなんとかで、
話題になったりして、もう、飄々としているだけでは済まされない人なんですよね。
お酒関係の情報、楽しみにしております。
今後ともよろしくお願いします。

Re:mapことクワトロ猫さん

mapさん、コメントありがとうございます。
紡績工場は「鐘紡」のことなのかと勝手に想像しております。
いつの間にか、という感じで変わっていたので、
ある瞬間から劇的に変化したわけではないんですよね。
いつのまにか工場が、外国のどこかへ行ってしまった、みたいな感じで。

井上陽水の裏話、ほとんど知りませんので新鮮です。
ご存知でしょうけど、たしかビートルズも電話帳を開いて、
歌詞に使う固有名詞、たとえばHendersonとか決めていたようですね。

陽水の歌詞って不思議な感じがします。
たくろうと比べると、ほんとなにがいいたいのやら……
乙山も、じつのところ陽水の歌詞が好きなのです。
わかりやすい反面、たくろうの歌詞は理屈っぽいところがあります。
なにか説教されているみたいな……

陽水派。

歌詞とメロディとリズムとでどれをとるかと言われたら、
(音楽好きならそんなバカな質問しませんよね。笑)
断然メロディをとる彼岸花。
そうと意識はしませんでしたが、私は陽水のほうをどちらかというと
好んで聴いてきた気がします。
と言っても、たくろうのメロディが嫌いというわけではないんですけどね。
たくろうの歌詞。『何か説教されてるみたい』とお書きになっていらっしゃる
ところを読んで、同感!と笑ってしまいました。

陽水はとにかくあの「きんいろ」という色がぴったりするような声が
好きでした。彼が影響を受けたという、ミッシェル・ポルナレフも私好きですから。
後は単純に、同郷だから、というのもあるかもしれません。

Re:彼岸花さん

彼岸花さん、コメントありがとうございます。
同時期に活動している陽水とたくろうですが、
やはり好みもあるようです。

井上陽水はフォークとかロックとかいうジャンルに関係なく、
陽水は、陽水、だった感じがします。
だって以前から悪く言えば「意味不明」ぶりはありましたもの。

ミシェル・ポルナレフはフランス的なロックミュージックを展開していた人でしたね。
アイディアやアプローチが斬新で、聴いていて驚かされることもあります。
非英語圏のロック/ポップで知らないものはたくさんあるでしょうね!

70年代、二人は音楽界のON…古いか?チクショ~

1980年以降が今と陸続き…というのに同感です!拓郎と陽水はどちらも大好きですが、私は拓郎さんこそメロディーの人と思います。最近ネットで知った「両国橋」「蛍の河」などの作品に触れ、改めて作家としての才能に感動しました。私はギターを弾きますが、拓郎さんのあのシンコペーションの効いた作品を歌いこなすのはかなり難しいですよ!ファンキーです。対し陽水さんは声の人と思います。1980年頃から作風がキャライメージと共に変わったと感じました。「white」辺りからメロディーはシンプルに、より歌詞に重点を置き…というより自らの美声を最大限引き出す為の唄作りと思います。私はこのお二人のライブ盤「おんすてーじ」と「もどり道」を今も愛聴しております。で、やっぱり1970年代の作風が最高だったなと言わざるを得ません。

Re:70年代、二人は音楽界のON

コメントありがとうございます。
70年代と80年代では前者のほうが良かった、
と感じる人は多いのではないかと思います。

そこに自分の青春があったと思う人はなおさらではないかと。
ご自分でギターを弾き、歌も歌われ、そしてしっかり聞き込んで
いらっしゃる方の貴重なご意見、ありがとうございます。
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