fc2ブログ

人情、熱血、結束、闘争、恋愛なき商店街物語

津村記久子 『八番筋カウンシル』 朝日新聞出版 (2009)

hachibansuji_council.jpg
題名にかんして本文から引用しておくと、「短くて通りの狭い、空から見たらY字型をしている商店街だが、末広がりの縁起を担いで『八番筋』と名付けられた商店街の評議会だから、八番筋カウンシル」ということだ。以下に登場人物たちをできるだけ簡単に挙げてみよう。

印刷会社の正社員として働きながら小説の投稿を続け、ついに新人賞を取るが、無理がたたって体を壊し、会社を辞め「八番筋」に帰ってきたタケヤス(桂治)が主人公。

正社員として会社勤めをしているホカリ(絹江)の家は、八番筋で主に生活リネンを売る商売をしていたが、祖父母が亡くなると同時に店は廃業。在庫がまだあるので、暇をもてあますタケヤスはホカリの店の在庫を売ることに。

大学を卒業後、東京を始めいろいろなところで働いていたヨシズミは、祖父が祖父がやっていた家業の文具店を継ぐため八番筋に戻ってきて、開店準備を進めている。

ホカリの従姉妹で、三人の同級生でもあるカヤナ(澤井茅菜)は、近所でも評判の美人であるが、高校を出るとすぐに中学のときから付き合っていたソウダと結婚、21歳で女の子(あやの)を出産するが、現在は離婚しており、カヤナは「土岐田医院」の受付で働いている。

母親が八番筋の近所の雑居ビルでスナックをやっているカジオ(と妹のアキ)には父親がおらず、八番筋にかかわるだれかがどちらかの(あるいはどちらもの)父親ではないかと噂になっている。カジオはヨシズミの祖父が死んだときに何か関係があったと疑われ、カジオ一家は八番筋を離れるが、ショッピングモールの建設にかかわる会社の一員として、カジオは再び八番筋に姿を見せる。

以上が主だった登場人物たちだが、それぞれ複雑な家庭の事情があり、商店街のそのほかの人物たちも合わせるとなかなかの人数になり、それをここではこれ以上書くわけにはいかない。

本書は、関西のある小さな町(登場人物たちの話し言葉から、そこが大阪またはその周辺であろうことが推測される)の商店街にかかわる人たちを描いた群像劇ということになるのだろうが、しかし本書はいわゆる「商店街人情物語」や「寂れた商店街の活性化物語」というわけではない。

ようするに小さな町にショッピングモールができるという話なのだが、そのなし崩し的な過程が描かれていて、住民たちの反対運動が起き、熱い戦いが繰り広げられるわけではなく、なんだかんだ言いながら結局ショッピングモールはできてしまう。だがそこに、巨大資本の流入によるコミュニティの崩壊などという物語が見えやすい形で差し出されているわけでもないのだ。

それらのありがちな、わかりやすい物語に嵌まり込むことを避けつつ、登場人物たちの現在と過去を行き来しながら淡々と話は進んでいくのだが、それでもどうなるんだろうと思いながらつい読んでしまうようなところが本書にはあって、それが本書の魅力ということになるのだろうか。ただ、この手のフィクションは「予定調和を外すことを予想させる」ところがあり、それはもうこの手のフィクションの常套手段になってしまっているんじゃないだろうか。


【付記】
本の表紙は中身を表す、とよく言われます。なるほどその伝でいくと、『八番筋カウンシル』も中身に流れているストイシズムとでも言うべき雰囲気をよく伝えているように思えてきます。
関連記事
スポンサーサイト



コメントの投稿

非公開コメント

No title

淡々とした日常を扱った小説って怖いです。
現実と近しいから、未来に起こるであろう何かが
ハラハラドキドキというよりも不安にしかならない。
果たしてそういうものを小説として読んで面白いのか?
…怖いものみたさなのか、今、すごく魅かれておりますが笑

それにしても「予定調和を外すことを予想させる」書き方というのは
これまで考えもしたことがありませんでした。
そういうのって意識して書けるものなのでしょうか?

Re:RSさん

RSさん、コメントありがとうございます。
予定調和というのは、わかりやすい例でというと「水戸黄門」です。
小説の例を挙げると浅田次郎のものでしょうか。
要するに、読者がある程度予想がつくところに、きちんと着地してくれる小説です。

『八番筋カウンシル』の津村喜久子や柴崎友香、保坂和志などの小説は、
読者の予想がつくところをあえて避けようとする小説を書く人たちです。
ですから「予定調和を外すことを予想させる」というのは読み手(乙山)がそうだろうな、
と思うことであって、書き手はおそらく「予定調和を避けて」いるだけなのだと思います。

それが「面白い」かどうかは、保証できません。
本も趣味の問題でして、何を「面白い」とするかは読み手によるではないかと思います。
プロフィール

只野乙山

Author:只野乙山

⚫︎ できれば「只野乙山=ただのおつざん」とお読みくだされば、と思います。

⚫︎ 文字中心のウェブログ。ほとんど一話完結で、どの記事をご覧になっても楽しめ(?)ます。文字数だけなら一冊の本に匹敵(凌駕?)するほどありますので、ごゆっくりどうぞ。

⚫︎ 下の「全ての記事を表示する」をクリックすると、全記事のタイトル一覧が出ますので過去記事を参照することができます。

全記事表示リンク

全ての記事を表示する

カレンダー
10 | 2022/11 | 12
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 - - -
最新記事
最新コメント

openclose

最新トラックバック
人気ブログランキング

人気ブログランキングへ

カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
QRコード
QRコード
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

アーカイヴ

2022/11 (15)

2022/10 (16)

2022/09 (15)

2022/08 (16)

2022/07 (19)

2022/06 (15)

2022/05 (16)

2022/04 (15)

2022/03 (15)

2022/02 (23)

2022/01 (16)

2021/12 (24)

2021/11 (15)

2021/10 (16)

2021/09 (15)

2021/08 (16)

2021/07 (15)

2021/06 (15)

2021/05 (18)

2021/04 (15)

2021/03 (16)

2021/02 (14)

2021/01 (10)

2020/12 (8)

2020/11 (9)

2020/10 (9)

2020/09 (8)

2020/08 (9)

2020/07 (9)

2020/06 (9)

2020/05 (9)

2020/04 (8)

2020/03 (9)

2020/02 (8)

2020/01 (9)

2019/12 (8)

2019/11 (9)

2019/10 (8)

2019/09 (5)

2019/08 (4)

2019/07 (9)

2019/06 (8)

2019/05 (8)

2019/04 (9)

2019/03 (9)

2019/02 (8)

2019/01 (8)

2018/12 (8)

2018/11 (9)

2018/10 (9)

2018/09 (8)

2018/08 (9)

2018/07 (8)

2018/06 (5)

2018/02 (7)

2018/01 (9)

2017/12 (9)

2017/11 (8)

2017/10 (9)

2017/09 (9)

2017/08 (8)

2017/07 (9)

2017/06 (9)

2017/05 (9)

2017/04 (8)

2017/03 (9)

2017/02 (4)

2017/01 (1)

2016/06 (1)

2016/05 (13)

2016/04 (13)

2016/03 (20)

2016/02 (10)

2016/01 (11)

2015/12 (10)

2015/11 (10)

2015/10 (11)

2015/09 (13)

2015/08 (10)

2015/07 (11)

2015/06 (10)

2015/05 (10)

2015/04 (10)

2015/03 (11)

2015/02 (9)

2015/01 (11)

2014/12 (9)

2014/11 (10)

2014/10 (11)

2014/09 (10)

2014/08 (10)

2014/07 (10)

2014/06 (10)

2014/05 (11)

2014/04 (10)

2014/03 (10)

2014/02 (9)

2014/01 (11)

2013/12 (9)

2013/11 (10)

2013/10 (10)

2013/09 (10)

2013/08 (11)

2013/07 (10)

2013/06 (10)

2013/05 (10)

2013/04 (10)

2013/03 (11)

2013/02 (9)

2013/01 (11)

2012/12 (9)

2012/11 (10)

2012/10 (11)

2012/09 (10)

2012/08 (10)

2012/07 (10)

2012/06 (10)

2012/05 (11)

2012/04 (10)

2012/03 (10)

2012/02 (10)

2012/01 (9)

2011/12 (9)

2011/11 (10)

2011/10 (10)

2011/09 (10)

2011/08 (10)

2011/07 (9)

2011/06 (9)

2011/05 (10)

2011/04 (8)

2011/03 (8)

2011/02 (12)

2011/01 (12)

2010/12 (12)

2010/11 (13)

2010/10 (15)

2010/09 (15)

2010/08 (14)

2010/07 (16)

2010/06 (17)

2010/05 (21)

2010/04 (18)

2010/03 (20)

2010/02 (23)

2010/01 (27)

2009/12 (27)

2009/11 (27)

2009/10 (26)

2009/09 (24)

2009/08 (19)

2009/07 (21)

2009/06 (30)

2009/05 (26)