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Behave as if the lady were there

いつ、どのようにして見聞きしたのか、もう定かでないが次のような話を覚えている。20世紀におけるドイツのナチス党政権下、強制収容所に連行されたユダヤの人々は想像を絶する状況にあった。絶望しかない日々の中で、男たちは部屋の中の一角にカーテンを引き、そこに「俺たちのレディ」がいることにして、生活し始めたという。

あたかもそこに女性がいるかのように男たちは振る舞った。奇跡的に何か食べ物が手に入った時はまず最初に彼女に持っていってやり、彼女に話しかける時も愚痴をこぼしたり弱音を吐いたりせず、紳士たるべく態度を貫き通した。少しずつ変化するユダヤ人たちの様子を訝しく思った看守がついに部屋を捜索したが、何も出てこなかった。

なんでこの話を思い出したかというと、じつは秋田に来て初めて軽い衝撃を受けるほどの美人を、とある場所で見たのである。もちろんそれまでに秋田で美人を見たことはある。宴会のコンパニオンなど見た目にそれとわかる人たちだろう。でもとくに心を動かされることはなかったし、どこか別の世界に住む人たちのように思えた。

職場と家を往復するだけの変化のない生活を続けているが、それに不満があるわけではない。そもそも静かに幕引きをするつもりでこの地にやって来たのだ。だが一人で暮らしていると、どうしても怠惰と自堕落の方向に引っ張られてしまう。生活が荒廃しているのは自分でもよくわかっているが、背筋を伸ばして気を張る必要もないのである。

強制収容所に連行されたユダヤの人々を引き合いに出すなどとんでもないことだが、その100万分の1でも参考にさせてもらいたい。もとより私は屈強な精神の持ち主ではないので、想像力でレディがいるかのように振舞うことは無理である。でも現実に存在する、某所で働く彼女を勝手に「私のレディ」として想定することならできそうだ。

あくまで想定である、私はたくさんの客の中の一人にすぎないので、彼女は私に気付いてさえいないが、それでいいのだと思う。余裕がないので私はたまにしか行けないが、それもまた好都合ではないか。そうして私の中のレディが存在することを確認し、それを生活の励みにできたらわずかでも良い方向に変わっていきそうな気がする。

そんな体型のままで彼女を連れて歩けるのか、とか、こんな汚い部屋に彼女を呼べるのか、とかね。もちろん連れて歩けなくても、部屋に呼べなくてもいいのである。そういうことはこの世では起こらないのだから。今の自分に必要なのは、どこか重力にも似た怠惰や自堕落に逆らって少しでも己を良く保とうとする心を導いてくれる、希望だ。


【付記】
• 何かのきっかけで、私の中の何かが少しでも変わっていくことを、喜んで受け入れたいですね。

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非公開コメント

No title

余韻のある記事ですね。

いろんな人生があって、いろんな想いがあって。

Re: ひけめっこさん

ひけめっこさん、コメントありがとうございます。
休みが増えたからといって調子に乗り、
自堕落になった挙句のおのれの姿に呆れます。
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只野乙山

Author:只野乙山

⚫︎ できれば「只野乙山=ただのおつざん」とお読みくだされば、と思います。

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