fc2ブログ

それぞれが、それぞれの重荷を持ったまま

ティム・オブライエン『世界のすべての七月』村上春樹訳 文藝春秋(2004)

july,july
タイトルに惹かれて読んでみた一冊。原題は表紙にあるように"July, July"である。

話は2000年の7月7日、ダートン・ホール大学1969年度卒業生が同窓会で集まり、夜のダンスのシーンから始まる。深夜まで飲んで騒ぎ、午前一時にバンドは演奏をやめるのだが、だれかがラジオをつけてパーティは続けられる。

翌朝、朝食会のあと、午後三時にチャペルで死んだ同窓生の追悼式があり、夕食会までの時間をつぶすために同窓生たちは近所のバーで飲み、遅れて夕食会に出席、それぞれが別れるまでの二日間を描いた群像小説。

1969年には若い盛りだった彼らも、2000年には50歳を超えている。そんな彼らの30年間がどんなものであったかを描いたこの小説は、全部で22の章から構成されている。2000年現在の章には「1969年度卒業生」という共通したタイトルが付けられ、その後にメンバーそれぞれの過去が回想されていくという仕組みになっている。群像劇なので登場人物が多いのだが、主な人々を簡単に挙げてみよう。

デイヴィッド・トッド:ベトナム戦争に行って片足を失う。
マーラ・デンプシー:デイヴィッドと結婚するが、現在は離婚。
エイミー・ロビンソン:新婚旅行で行ったカジノで勝ち続けるも、男とは二週間ともたず離婚。
ジャン・ヒューブナー:背の低い男に50ドルで裸の写真を撮らせ、その弟と結婚するが29年後に離婚。
スプーク・スピネリ:二人の男と結婚し、二重生活をしている。
ビリー・マクマン:ベトナムへの従軍召集を避けてカナダへ亡命、同時に駆け落ちをもくろむが、女は来なかった。
ドロシー・セイヤーズ:約束していながら、ビリーのところには行かず、手堅い男を選んだ。乳癌が見つかり、片方の乳房を切除。
ポーレット・ハズロ:妻のいる男に書いた手紙を取り返すため家宅侵入したところを見つかってしまい、職を失った元女性牧師。
エリー・アボット:夫のいる身で元同級生のハーモンと浮気の最中、ハーモンが湖で溺れ死んでしまう。
カレン・バーンズ:51歳にして独身、退職者コミュニティーの代表を務め、数人のメンバーを引率してのウォーキング・ツアーのために雇った36歳の運転手に恋心を抱く。その後殺される。
マーヴ・バーテル:モップと箒の製造会社の事業主。ダイエットに成功し、妻と別れ、重役秘書のサンドラに「作家である」と嘘をついて彼女の気を引き、結婚するが、嘘は露呈してしまう。現在はまたもとの体重に戻り、心臓に危険を抱えている。

登場人物たちは51歳前後ということなんだけど、雰囲気からすると30~40歳代の同窓会といってもおかしくない感じで、もし日本人が50歳代で同窓会を開いたならこういうふうではないだろうな、というのが正直な感想だ。

筋らしい筋もなく、話が収まるところへ収まるわけではない。そこになにか救いがあるわけでもないし、それぞれの重荷が軽減されることもなく、それぞれの生活を続けていくしかないのだが、なぜか気になって読み進めてしまう。

登場人物たちは最後の夕食会の前の時間つぶしに近所のバーへ繰り出し、そこでそれぞれの真実を語り合う「真実ゲーム」なるものを行う。そしてそれぞれの重荷を背負いながら、それぞれの生活へと戻っていくわけだが、それまでは区切られていた各人のせりふが最終部分では区切りがなくなり重なっていく様子は、なにか映画を見ているようだ。

翻訳者(村上春樹)の解説によると、本書は当初から長編小説を構想して書かれたものではなく、短編として発表したいくつかの小説をつないで長編として書き直したものだという。なので長編ですべてを解き明かすというタイプではなくて、暗示的な断片が重なり合ったものゆえのわかりにくさも内包しているわけで、そのあたりが本書の魅力なのだろうかと思う。


【付記】
最後のほうで「映画を見ているようだ」と書きましたが、この場合、ハリウッド映画の展開ではなく、近年のイギリス映画のそれに近いものがあると感じました。乙山は、そんな近年のイギリス映画をいいなあ、と思っています。
関連記事
スポンサーサイト



コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

只野乙山

Author:只野乙山

⚫︎ できれば「只野乙山=ただのおつざん」とお読みくだされば、と思います。

⚫︎ 文字中心のウェブログ。ほとんど一話完結で、どの記事をご覧になっても楽しめ(?)ます。文字数だけなら一冊の本に匹敵(凌駕?)するほどありますので、ごゆっくりどうぞ。

⚫︎ 下の「全ての記事を表示する」をクリックすると、全記事のタイトル一覧が出ますので過去記事を参照することができます。

全記事表示リンク

全ての記事を表示する

カレンダー
11 | 2022/12 | 01
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
最新記事
最新コメント

openclose

最新トラックバック
人気ブログランキング

人気ブログランキングへ

カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
QRコード
QRコード
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

アーカイヴ

2022/12 (5)

2022/11 (15)

2022/10 (16)

2022/09 (15)

2022/08 (16)

2022/07 (19)

2022/06 (15)

2022/05 (16)

2022/04 (15)

2022/03 (15)

2022/02 (23)

2022/01 (16)

2021/12 (24)

2021/11 (15)

2021/10 (16)

2021/09 (15)

2021/08 (16)

2021/07 (15)

2021/06 (15)

2021/05 (18)

2021/04 (15)

2021/03 (16)

2021/02 (14)

2021/01 (10)

2020/12 (8)

2020/11 (9)

2020/10 (9)

2020/09 (8)

2020/08 (9)

2020/07 (9)

2020/06 (9)

2020/05 (9)

2020/04 (8)

2020/03 (9)

2020/02 (8)

2020/01 (9)

2019/12 (8)

2019/11 (9)

2019/10 (8)

2019/09 (5)

2019/08 (4)

2019/07 (9)

2019/06 (8)

2019/05 (8)

2019/04 (9)

2019/03 (9)

2019/02 (8)

2019/01 (8)

2018/12 (8)

2018/11 (9)

2018/10 (9)

2018/09 (8)

2018/08 (9)

2018/07 (8)

2018/06 (5)

2018/02 (7)

2018/01 (9)

2017/12 (9)

2017/11 (8)

2017/10 (9)

2017/09 (9)

2017/08 (8)

2017/07 (9)

2017/06 (9)

2017/05 (9)

2017/04 (8)

2017/03 (9)

2017/02 (4)

2017/01 (1)

2016/06 (1)

2016/05 (13)

2016/04 (13)

2016/03 (20)

2016/02 (10)

2016/01 (11)

2015/12 (10)

2015/11 (10)

2015/10 (11)

2015/09 (13)

2015/08 (10)

2015/07 (11)

2015/06 (10)

2015/05 (10)

2015/04 (10)

2015/03 (11)

2015/02 (9)

2015/01 (11)

2014/12 (9)

2014/11 (10)

2014/10 (11)

2014/09 (10)

2014/08 (10)

2014/07 (10)

2014/06 (10)

2014/05 (11)

2014/04 (10)

2014/03 (10)

2014/02 (9)

2014/01 (11)

2013/12 (9)

2013/11 (10)

2013/10 (10)

2013/09 (10)

2013/08 (11)

2013/07 (10)

2013/06 (10)

2013/05 (10)

2013/04 (10)

2013/03 (11)

2013/02 (9)

2013/01 (11)

2012/12 (9)

2012/11 (10)

2012/10 (11)

2012/09 (10)

2012/08 (10)

2012/07 (10)

2012/06 (10)

2012/05 (11)

2012/04 (10)

2012/03 (10)

2012/02 (10)

2012/01 (9)

2011/12 (9)

2011/11 (10)

2011/10 (10)

2011/09 (10)

2011/08 (10)

2011/07 (9)

2011/06 (9)

2011/05 (10)

2011/04 (8)

2011/03 (8)

2011/02 (12)

2011/01 (12)

2010/12 (12)

2010/11 (13)

2010/10 (15)

2010/09 (15)

2010/08 (14)

2010/07 (16)

2010/06 (17)

2010/05 (21)

2010/04 (18)

2010/03 (20)

2010/02 (23)

2010/01 (27)

2009/12 (27)

2009/11 (27)

2009/10 (26)

2009/09 (24)

2009/08 (19)

2009/07 (21)

2009/06 (30)

2009/05 (26)