チームワークの暴走

今はたぶん平均的男性の体力以下の私だが、これでも中学の時は野球部だった。漫画『プレイボール』や『キャプテン』あるいは『ドカベン』などに夢中になり、将来プロ野球選手になれたらいいな、とか夢を抱く小学生だった。だけど中学生になると、圧倒的な体力の違いを思い知らされて、かつての夢はいつの間にか消えていくものである。

すでに夢は消え、惰性で野球部に所属していたんだけど、ある日主将が「明日から部活後、**の掃除をすることになった。よろしく」と言った。今では考えられないことだが、当時共同のわりと大きな公衆トイレが存在していた。だが、その公衆トイレは自宅の方角とは反対にあり、そこが通過点になる主将たちとは話が違うのである。

確かに公衆トイレの清掃をボランティアでするのは「善行」とは思う。でもチーム全体でやろうとするなら、どうして一言相談してくれなかったのか。決定する前に話し合いが持たれるべきではないのか。この理不尽な「命令」あるいは「強制」に不満を感じたのは、私と近い地域に住む部員数名たちだった。私たちは、やってらんねえよ、と帰宅した。

それからしばらくして部活後、部室で主将が「ちょっと話がある」と言い出した。公衆トイレに私たちの姿がないのを不審に思って、部員の一人を見張らせ、私たちがそのまま帰宅したのを確認した、というのだ。さらに「俺たちが試合に勝てないのはチームワークがないからだ」と主張し、「チームワークを乱す反乱分子」を制裁しようというわけだ。

制裁といっても、そのとき暴力があったわけではない。これは主将たちの名誉にかけて書いておきたい。だが、チームにとって私たちの行動がいかに害を及ぼすものであるかを説き、休憩時間における遊びの一切と、チームをおちょくるような言動(私はよくそれをした)の一切を禁止したのである。もちろん、公衆トイレの清掃は強制参加となった。

チームワークというのは試合中の話で、例えば守備のとき三塁ゴロになった場合、各選手は持ち場でじっとしているわけではない。左翼手は三塁手が後逸した場合を想定して前進する。右翼手は三塁手が暴投した場合を想定して、一塁後方のファウル領域にダッシュする。捕手も一塁前方のファウル領域めがけて走っている。

攻撃の時でも、ランナーが一塁に出れば、打者は一塁走者が二塁、三塁に進みやすいよう、できるだけ右方向に打球を飛ばすよう意識するし、どうしても一塁走者の封殺を防いで進塁させるために犠牲バントを行うこともある。まさに "All for one, one for all" だけど、野球のチームワークとは本来そういうものだと思っている。

ところが、部活後のプライヴェートな時間にまで踏み込んで何かを強制したり、休憩時間の言動を規制したりするのはチームワークではなくて、小さな全体主義である。そうして、ある理念を正当化(美化)し、絶対化(制度化)した時、ファシズムとなる。これは姿形を変えて、ふだんの生活環境にそれとわからぬようにして現れるから恐ろしい。

思い込みは強いけれど思慮のいささか足りない少年たちが、チームワークと全体主義を取り違えて(混ぜ合わせて)しまったことによる小悲劇であった、と今では思える。だけど私にとってよほど心の傷になったのだろうか、今でも悪夢の一つとして、当時の面々が出てきて苦しめられることがある。


【付記】
⚫︎ 私はどうも集団行動が苦手で、群れることを本能的に拒否してしまう性質があります。そして群れることで力を得たかのように振る舞う人も好きになれません。この種の出来事はたぶん、今でも運動系の部活動で起きてしまうかもしれませんが、できれば起こってほしくないですね。

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No title

私も乙山さんと同じで、群れることが大嫌いです。趣味の一つであるオートバイも、集団で走るマスツーリングなどせず、いつも一人で走ります。自由な気分を味わえる最高のツールであるオートバイなのに、なんで制約の多いマスツーリングなんかするんでしょうね。とはいえ、職業柄「団結して頑張ろう!」なんて絶叫していたんですが、それはそれとして。

Re: オッカイポさん

私はたぶん、一匹狼として生まれついてしまったのだと思います。
なので集団から離れて一人でいてもあまり苦痛はないのです。
群れの中だと、何だか居心地が悪くて仕方ありません。

だけど世の中には団結しないと話にならないこともありますからね。
組織では、多かれ少なかれ右派と左派があると思いますが、
私は左派の人達と仲良かったと思います。

No title

勤めてる弊社では普通に、日常茶飯事的に全体主義的な振る舞いを説かれますよ・w・
さすがに私ももういい歳なので、右から左へ無表情で聞き流していますが(苦笑)

チームの歯車として働くのは厭いませんが、歯車だからあってもなくても良い様な全体行事に参加してどうだこうだ言われるのは、価値観の押し付けみたいなものだと一蹴してます。
そんな私は社内ではコミニュケーション力無しの評価です。はい(笑)

群れることが嫌い

これは、私のブログの自己紹介欄に真っ先に書いてある文章です。ここでオッカイポさんも含めて、群れきらいが3人も登場しました。仲間で集まりましょうか。いや群れてはいけないんでしたっけ⁉
  右や左、お金持ち、貧乏といろんな人がいますが、基本的には2種類の人しかいないと思います。それはいい人と悪い人です。

Re: 北摂在住の名無しさん

北摂在住の名無しさん、コメントありがとうございます。
寮に住んでいると、プライヴェートに介入してくるので閉口します。
立場上、下手なことは言えませんので割愛しますがひどいものですよ。
会社員なら多かれ少なかれ経験することだと思いますが、
上層部次第ですよね。

Re: 群れることが嫌い;トニーさん

トニーさん、コメントありがとうございます。
世の中にはどうしても群れの中にいないと安心できない人がいるんですね。
一人で行動できないのか、必ずつるんで行動するようです。

誰かといる時ははしゃいでいるけれど、
一人になったら早速スマートフォンに浸るようです。
実によく見かける光景ですね。

> 仲間で集まりましょうか。いや群れてはいけないんでしたっけ⁉

笑っちゃったじゃないですか! トニーさんはユーモアも一流です。

^^

野球部出身?とは思いませんでした。
勝手に「只野乙山=孤独のグルメ=料理」と思っていますから。
野球部と繋がらなかったのです.
(もっとも主演の松重さんは体育会系ですがw)

自分は常に一匹狼ならぬ羊でした(羊年生まれw)
プライベートまで踏み込んでくる。これはコワイですね。
自分は本能的にこれを知っているようで。
チームとか団体とか集団。まるでダメですよ^^;)/

Re: ^^;waravinoさん

waravinoさん、コメントありがとうございます。
まあ、野球部をしていたと言うと、びっくりする人が多いですね!
よっぽどヤワな男に見えるんでしょうか。

乙山=孤独のグルメ=料理、だけではありませんぞ。
どうか他のジャンルもご覧ください。
わけ有って美術芸術のことは書いておりませんが、わりと語れるほうです。

記事の少年たちの怖い点は、自分たちの正義を信じて疑わないことです。
野良猫を処分して公園を綺麗にするのが正しい、
と思いこんでいる正義の市民と同じです。

この人たちは、自分たちがしている「正しいこと」を、
他人に押し付けてくるから厄介なのです。
組織でそれが起こったら、かなりヤバい組織と言えましょう。

できるだけ関わりたくないですね。

No title

> 公衆トイレの清掃をボランティアでするのは「善行」とは思う。

 わが国では「無料で奉仕すること」をボランティアというよう
ですが、それはちがいます。もともとは、人もいやがる軍隊に自
ら進んで入ること(笑)。

 軍隊だってなにがしかの俸給は支払うわけですから、「無料」
ではなく「自発的に」というところが肝腎ですね。主将が部員に
申し渡してさせることはボランティアではありません。学校がボ
ランティア活動を生徒に強いるのも、当然ことばの誤用です。

 そのへんを取り違えることがなくなれば、この国はもっと良く
なるような気がします。

Re: 薄氷堂さん

薄氷堂さん、コメントありがとうございます。
「ボランティア」はすっかり定着してしまったようでして、
今後も誤用され続けるのではないかと思います。
たぶん誤用だということを知らずにね。
私もつい使ってしまいましたしねえ。

No title

こんにちは。

私も、群れるのが何より苦手ですねえ・・・
人間が社会の一員として生きて、組織の中にいれば、そうも言ってられない、
自分を押しころしてでも組織の一員として振る舞わねばならないことも
仕方なし、あるでしょうが、できればそうした場合にも、遠くから一歩離れて
見ていたい方です。ただ、やるべきことを黙々とやる・・・、それだけかな。

でも、ほんと、出来たらそういうことの少ない社会であってほしいなあ。
とにかく私は、『同調圧力』というのが一番嫌いです。
これはもう、右だの左だのといった思想とは関係ない。
人間の『精神の自由』ということを大事にしない社会はろくなもんじゃないですね。

そういう意味で、企業における『ブラックバイト』などの根っこの一つに、
日本特有の『学校社会におけるブラック部活』とでも言うようなものの存在が
あるのではないかと思っています。
もっと部活などというものは、本来自由で楽しくあるべきもの。それが、無駄にお互いを
縛り付ける妙なものになっているケースもあるのではないか。
乙山さんがここにお書きになったことなどもその一つの例かもしれませんね。
『チームのためだ』とか、『精神修養』の名の下に、無駄な同調圧力や
ひいてはいじめ、が行われているケースはよく問題にもなっていますね。

私も、そんなところにいるくらいなら、孤立で結構!と思ってしまいます。><








Re: 彼岸花さん

彼岸花さん、コメントありがとうございます。
日本人は徒党を組むのが好きなようでして、
学校(や職場?)でもお弁当を集まって食べたがるのです。

もう昔のこと、高校生の頃だったかな。
私、全然気にしなくて、自分の机で一人で食べていたんですね。
ふと見ると、みんなグループを作って席を移動し、
グループに属していないのは私だけになっていたのです。

でも全然平気ですから、一人で食べ続けていたら、ある日、
とあるグループの誰かが、「一緒に食べようぜ」と誘ってくれました。
別に嬉しくないのですが、彼らにしてみれば「放っておけない」ようなのです。
どうも、多くの日本人は、群れている方が自然みたいですね。

みんなで集まってお弁当、くらいなら可愛いものですが、
そこには緩やかな共有意識みたいなものがあって、
それに同調しない者を排除しようとする傾向があります。

グループから離れたら、何を言われるかわからなくて怖い、
だからグループをどうしても離れることができないのです。
本当に好きでそのグループに属しているのかどうか、怪しいものです。

小さい頃からずっとそうしてきた人たちが多いわけですから、
学校でも、職場でも、同じように振る舞う方が自然、というわけです。
会社も、大きなグループですから、やはり多かれ少なかれ同調圧力がかかります。
社会が同じことをやると、もうファシズムですよね。

日本人はファシズムに対していささか鈍感なところがあるような気がします。
だから怖いんですね。
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只野乙山

Author:只野乙山

⚫︎ できれば「只野乙山=ただのおつざん」とお読みくだされば、と思います。

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