保健所検査に通った

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飲食店を開業する場合、まずは保健所に飲食店開業許可を申請するわけだが、その際保健所による立ち入り検査がある。チェック項目はいくつかあって、客と店員の間に仕切りがあること、食器棚には扉がついていること、お湯が出る(給湯器が設置されている)こと、そして二層シンクを備えており、シンク以外に手洗いがあること、などが知られている。

いくつかの店舗物件を内覧した際、意味もなく手洗いが設置されているのを見て変に思ったが、今から思うとあれは保健所の検査対策だったわけで、意味がないどころか、あれがないと営業許可が下りない重要アイテムなのだ。ところが、わが〈BAR FLANEUR〉には手洗いボウルが設置されておらず、管理会社に連絡を取ると、「手洗いボウル、お貸ししますよ」という。

「は、何それ?」と言いたくなる不思議な話だが、代々そうやって借主に貸し出されて保健所検査に役立ってきた手洗いボウルなわけで、中にはそれを借りずに独自に手洗いボウルを設置する借主もいたのであろう、カウンターの内側の壁には鬼目ナットが打ち込まれ、手洗いボウルをビスで固定した痕跡が残っている。ところが今回、そこには製氷機が設置されている。

それでは、というわけで私(乙山)は管理会社に手洗いボウルを借りることにして、管理事務所に行くと、男女二名の方々が例の手洗いボウルと下につなげて使うパイプ類を持ってきた。男の人は道具箱を、女の人はパイプ類を、そして私は例のボウルをそれぞれ持って〈BAR FLANEUR〉へ向かった。道具箱なんか持って、何かしてくれるってわけなんだろうか。

カウンターの内側はコンクリートになっており、手洗いボウルを固定するにはコンクリート用のビスとインパクト・ドライバーが必要である。シンクのすぐ横に手洗いボウルを付けても水道の蛇口がボウルに届かないので、シンク自体をずらすか、長い蛇口が必要である。これは、意外に厄介で面倒な作業で、どう見ても素人がちょっとやったらできるような代物ではないと思った。

保健所検査を幾度となく潜り抜けてきている飲食店専門の内装業者なら、さほど難しい問題でもなかろうが、こちらは素人である。なんでこんな厄介な問題を、毎度毎度繰り返し続けるのか、いっそ手洗いボウル自体を設置してしまえばいいのに。私が困り果てているのを見かねてか、女の人がスマートフォンで電話をして、内装業者と話を付けてくれ、業者とも実際に会って話をした。

何しろ公式な仕事の依頼ではなくて、本職が終わった後の「小遣い稼ぎ程度の話」なので、なんだか申し訳ない気持ちになって「検査は10日なんで、それまでにそちらの都合のいいときにお願いします」と話を付けた。内ドアを依頼した内装業者には「管理会社の人が手配してくれたので」と手洗いボウルの設置をしなくてもいい旨を話して了解してもらった。厄介な問題が落着して安心した。

ところが、である。3月8日になっても業者から何の音沙汰もなく、9日の午前中、いくらなんでも不安になって管理会社の人に連絡を取った。業者に連絡してみます、と回答を得た。炊飯専用土鍋で炊いたご飯にレトルトカレーをかけたのを食べ終わった頃、連絡があって「業者さん、インフルエンザで動けないみたいですよ、メールを入れたはずですけどって……」という。

そんなバカな、と携帯電話のメールを確認すると、たしかに3月7日付でインフルエンザ云々、というメールが届いていた。なんということだろう、何でそれに気付かなかったのか! 管理会社のお二人も駆けつけてくれて、何とかやってみようと頑張ったけれど、接着面が意外に小さいので、両面テープで固定するわけにもいかない。男の人が実際にやってみたけれど無理だとわかった。

今日(9日)の3時過ぎから工事に入る内装業者に連絡を取り、「手洗いボウルを取り付ける予定だった業者さんがインフルエンザで……何とかしてもらえませんか?」というと、「ええっ! 水道関係は用意してませんよ、うーん……」と難色を示す。そりゃそうだわな。やる予定になかったものを急に言われても困るに決まっている。パイプと蛇口はこちらで用意しますから、と伝えると、現場を見て決めましょう、と。

ああもう……なんでこういうドタバタ悲喜劇に巻き込まれてしまうんだろうか。ホント、狙ってないですよ、これ。ねえ、なんですんなりいかせてくれないんだよ! と心の中で叫んでしまった。3月9日、関西は雨、この雨の中を、いちばん近いホームセンターまで行って、水道の蛇口とパイプを購入しないといけない破目になってしまった。最短は芦原橋らしいので、御堂筋線で天王寺まで行ってJR環状線に乗り換えて……とか独り言を言っていると、管理会社の方々が「私らで買うて来ますわ」と言って下さった。

なんてありがたいことだろう、だけどこんな厄介な問題があるとわかっていて貸すほうもどうなんだろう、と正直思う。だけどここはグレイゾーンで、検査が終わったら手洗いボウルを撤去する(おいおい)経営者も多いようだし、料理主体の飲食店でも、食器棚に扉が付いている店を見たためしがない。要は保健所の基準が、現場の実状に合っていないだけなんだけど、基準は基準である。

そうこうしているうちに、内装業者が工事に入った。こっちはそれをじっと見ているのも何だし、ビルの一階に降りて管理会社の人たちが帰ってくるのを待つんだけど、けっこう寒いし雨は降っているしで、時間が経つのが長く感じられますね。管理会社の人たちが水道の蛇口とパイプを持って来て、内装業者と話をし、設置方法は任せることになり、蛇口とパイプの代金は私が支払うことになった。

そして、検査の日。3月10日の午後4時、保健所の人がやって来て検査が始まった。提出した店の平面図を見ながら、現物との照会を行っていき、場合によってはお湯が本当に出るのか、手洗いボウルは機能しているのか、蛇口をひねって調べていくのだが、その詳細をここで語る必要はないと思う。そう、すべて「シロ」なんだから。検査はじつにスムースに、短時間にて終了した。問題は何もないわけだから、当然の結果だと思う。

というわけで、保健所検査、無事通りました。安心したあまり保健所の人に店の名刺を渡して「是非いらしてください、お待ちしております」などと妙な営業活動を行いそうになったけれど、それはやはりやめておくべきだと思う。検査の時とどう変わったか、なんて、名前と顔がわかっている人に見せるべきではないし、彼らもすべてわかっていてふつうに店を利用しているはずなのだ。たとえ目の前の食器棚に扉が付いてなかったとしても。決して意地悪なわけではなく、ただ決められたことを仕事として行っているだけなんですね。


【付記】
● ここからは架空の話です、ご注意くださいね。

保健所の職員が水道の蛇口をひねったあの瞬間の、緊張とスリルはかつてないほどのものだった、などという陳腐なドラマは起こりえません。あのとき偶然、リングが外れていて、シンクの栓が貯水モードになったままだったのです、もし、シンクの栓を抜くと水が……だってあの排水口はダ**なんだし、などというくだらぬサスペンスも絶対にありえません。

ここから現実で、もちろん、言うまでもないことですが「シロ」だからです。


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末端の行政

乙山さん、検査受審お疲れさまでしたね。蛇口が2個とか、棚の扉とか、こういった規制は、下手をすると戦後、甚だしきは大正年間に作られたものがそのまま、という物もあるようです。
 時代に則してないようです。
 
 食品会社では、しっかりした企業では衛生管理もばっちりですが、零細の漬物やさんなどでは、逆に保健所は片目をつむってくれて、指導もしてくれます。

厚労省や経産省の役人は、自分たちにうまみのある事しか興味ないので、蛇口のルール改定なんかに興味ないようです。

さて、準備にあたふたされているようですが、ほとんどの店主さんが同じ経験をされていると思います。

以降は店内装飾、メニュー、およびメニューごとのグラスや食器選定でしょうか。値段設定もかな。

進行状況を楽しみにしています。

Re: 末端の行政; トニーさん

トニーさん、こんにちは! コメントありがとうございます。
いやもう、今回のドタバタにはほとほと参りましたよ。
こういうのは好きじゃないんです、なんでこうなってしまうんでしょうね?

仰るように、おそらく保健所の検査項目はかなり古いもので、
現場の実状と合っていませんが、基準は基準ですから仕方ありません。
職員たちも、決まりに従って動いているだけで、お仕事なんですよね。

やること、かなり多いんですよ。
メニュー作り、ホームページ作成、グラス以外の食器の選定、
Airレジ、クレジット決済システム、自動クラウド会計ソフトとか……

おまけに、ウェブ広告の件で写真撮影もありますし……
間に合うのかなあ。
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只野乙山

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