『キル・ビル』

『キル・ビル』(Vol.1、2003年、アメリカ映画、111分)(Vol.2、2004年、136分)

KillBill_01.jpg
原題:Kill Bill
監督:クェンティン・タランティーノ
出演:ユマ・サーマン、デヴィッド・キャラダイン、ダリル・ハンナ、マイケル・マドセン、ルーシー・リュー、ヴィヴィカ・A・フォックス、千葉真一、栗山千明、ジュリー・ドレフュス、ゴードン・ラウほか


クェンティン・タランティーノ監督映画『キル・ビル』は日本人も出演しているということで話題になっていたことはよく覚えている。朝の情報番組でもかなり時間を割いて紹介していたのだが、例によって「話題になっているものはとりあえずパス」という何ともひねくれた性格のゆえか、映画館に足を運んで見ることもなく、何年も経ってしまった。このあたりはもう少し改善したほうがいいと自分でもわかっているのだが、性格というのはそう変わるものではなかろう。

「深作欣二に捧ぐ」という文字が出た後、始まりはモノクロ画面で、ヒロイン(ユマ・サーマン)が血だらけのひどい顔になって倒れている。『パルプ・フィクション』(1994)でもかなりぶっとんだ演技をしていた彼女だが、いきなりこれは……ボスらしき男ビル(デヴィッド・キャラダイン)が近づいてきて銃を撃つのだからヒロインはもうおしまいか、という感じだが、タイトル画面の後はカラー映像になっている。

アメリカの片田舎に車で訪れたヒロインは、ある邸宅に入っていくが、そこにはかつて自分を痛めつけた組織のメンバー、ヴァニータ・グリーン(ヴィヴィカ・A・フォックス)がいた。ヒロインはいきなりパンチを食らわせ、女同士の格闘が始まるわけだが、これがまたかなり訓練を積んだと思われる動きで、思わず笑ってしまうような嘘臭さが微塵も感じられないのがすごいところだ。といっても、ジョン・ウー監督のようなアクションも個人的には好きである。

要するに、殺し屋組織から足抜けしたヒロインに制裁を加えたビルたち五人に対する復讐劇であり、題名はそのまんまで筋も単純明快。千葉真一と深作欣二監督はコンビを組んで何本も映画を撮っているが、それをタランティーノ監督は見たのであろう、とにかく日本のアクション映画のようなもの、できればそれにジョン・ウー的なアクションも加味して現代的にブラッシュ・アップしたような感じで撮りたい、という雰囲気が伝わってくる。

『Vol.1』の見所は沖縄にヒロインが訪ねて行って、伝説の刀職人ハットリ・ハンゾウ(千葉真一)に刀を作ってもらう話と、ハンゾウの刀を持ったヒロインが暴力組織のトップ、オーレン石井(ルーシー・リュー)と戦う場面だろう。ゲスト出演している千葉真一(クレジットはSonny Chiba)なんだけど、なんだかうれしそうに演技しているように見える。千葉自身が戦う場面はないのが少し残念だが、女優達に剣術の指導を行ったという。

オーレン石井の過去を明かす場面で突然アニメーションが挿入されて驚くが、これは『銀河英雄伝説』や『新世紀エヴァンゲリオン』などにもかかわった日本のアニメ・プロダクションが担当したという。日本のアニメとアメリカン・コミックスがブレンドされたような不思議な感じのアニメ。そして栗山千明というとても可愛い女の子が、女子高校生の制服姿で鎖のついた金属製の球を振り回す姿に度肝を抜かれる。だけど彼女に「GOGO夕張」っていう変な名前が付けられているのは笑ってしまうなあ。

もっと笑ってしまうのはヒロインが黄色い体操服を着て登場するところ。これもう、どう見てもブルース・リーの『死亡遊戯』ですよね。体側に黒のラインが入っているところまで再現しているのに本気を感じる。映画大好きな監督だけあって、この手の「オマージュ」とか「パロディ」はてんこ盛りらしいので、気になる人はウィキペディアやその他ネットで情報を集めるといいんじゃないだろうか。個人的には『Vol.1』のエンディング曲に日本の演歌が使われていること、これがいちばん衝撃的だった。「おんな、おんな、おんないのちの、う~らみぃ~ぶ~し」とくるんだからねえ。

オーレン石井の組織のNo.2で弁護士でもあるソフィーはどこかで見たことがあると思っていたら、NHK『アインシュタイン・ロマン』の最終話に出てきたジュリー・ドレフュスではないか。まったく悪者には見えない感じの彼女、フランス語と英語、日本語ができる人だから、撮影の現場では本当に役に立ったんじゃなかろうか。日本が舞台の場面における影の功労者だと思うけど、作中では悲惨な目に遭ってちょっとかわいそうになるんですよね。

『Vol.1』で五人のうちの二人を始末した後の『Vol.2』で、舞台はアメリカ、テキサス州へ移る。ここでビルの弟、バド(マイケル・マドセン)とヒロインがやりあうことになるのだが、ヒロインは胸に岩塩をぶち込まれた後、棺桶に入れられて生き埋めにされてしまうのだ。その後、ヒロインが中国の高僧パイ・メイ(ゴードン・ラウ)に弟子入りして修行をする場面になるのだが、ここでもかなり厳しい修行で、見ていて大丈夫かな、と思ってしまう場面もあった。そしてクライマックスはメキシコで、ビルとの直接対決になる。

全編通じて言えるのは、これだけヒロインがズタボロになってしまう映画がかつてあっただろうか、と思ってしまうほど、ヒロインが本当にひどい目にあう映画ということだ。『パルプ・フィクション』でユマ・サーマンを見たとき、その演技力に舌を巻いた。本作でも体当たり演技の連続なんだけど、ユマ・サーマンはそれができてしまう人なんですね。タランティーノ監督は女優ユマ・サーマンの演技力の一部を最大限まで引き出したのではないかと思う。ハードヴァイオレンス・アクション映画なんだけど、なぜか笑えてしまうところがいっぱいあって、いい意味で不思議な後味を残す映画ではないだろうか。


【付記】
● ハリウッドが日本関係の映画を作ると、ネイティヴの日本人にとってかなり違和感が残るものが多いのですが、さすがは日本映画通のタランティーノ監督だけあって、それほど変な感じはしませんでした。直球勝負の映画だと思いますので、あまり深く考えずに楽しむのがいいのですが、「ハードヴァイオレンス映画」なので、食事をしながら、とか、家族みんなで、というのはやめておいたほうがいいと思います。


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これは面白かった

こんにちは。
「1」しか観ていないんですが、「パルプ・フィクション」以上にパルプ・フィクション的というか、
ほとんどマンガな世界を真剣かつ大真面目に再現しているのが素晴らしいですね。
最後の大立ち回りは往年のやくざ映画そのままの様式美、それを洗練し現代的に仕立て直してます。
ジュリー・ドレフュスは、NHKフランス語講座の頃からファンだったので、出演は嬉しかったです(フランス語勉強する気もないのに彼女目当てにフランス語講座観てました)。
栗山千明も、「ゴーゴー夕張」の怪演で一気にブレイクしましたね。

それにしてもなぜ私は「2」を観てないんだろう・・・?

No title

こんにちは。

キル・ビルは公開から半年後くらい当時加入してたWOWOWで見ました。当時は良く分からないことも多かったんですが、去年ロジャー・コーマン監督のドキュメンタリー『コーマン帝国』を見てて、納得したことが多々ありました。

タランティーノ監督はコーマン監督のB級映画のファンであり、カンフー映画ファンで日本映画ファン。コーマンとゆかりのあるデヴィッド・キャラダインは、カンフー作品でB級映画スターとして一世風靡していた。というのがあってのビル役だったんですね。

笑っちゃうくらいの派手で大袈裟なアクションシーンは、コーマン監督から受け継ぐ伝統といえるかも?

ところで、タランティーノ監督は梶芽衣子の大ファンだそうですね。千葉真一は勿論のこと、彼女への敬意も伝わってくる作品であり、娯楽性も高いという、とても面白い映画だと思います。

Re: これは面白かった ; 木曽のあばら屋さん

木曽さん、こんにちは! コメントありがとうございます。
『キル・ビル』は面白かったですねえ!
根底はシリアスのはずなんだけど、仰るように漫画的なんですね。

ジュリー・ドレフュス、美しかったです。
『フランス語講座』に出ているのは知らなかったので残念!
彼女『イングロリアス・バスターズ』にも出ているそうで、
しかもメラニー・ロランも出演しているので必ず見る予定です。

え、なんで『Vol.1』だけなんですか?
是非、『Vol.2』も見てくださいね。

Re: yuccalinaさん

yuccalinaさん、こんにちは! コメントありがとうございます。
ほうほう、ロジャー・コーマン監督作品を見たことがないので、
そのあたりのつながりは全くわからなかったですよ。さすがですねえ。

> ところで、タランティーノ監督は梶芽衣子の大ファンだそうですね。

へえ! それも知らなかったですねえ! だからあのエンディング……
だけどユマ・サーマンの雰囲気と合っているとはとても思えないんですけど。
まあ、彼女が黄色の体操服を着た瞬間からもう漫画の世界になってるので、
あのエンディングもあり、なんでしょうね。
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