『ストーカー』

『ストーカー』(1979年、ソビエト映画、164分)

Stalker.jpg
原題:Сталкер(Stalker)
原作:アルカジイ&ボリス・ストルガツキー『路傍のピクニック』
監督:アンドレイ・タルコフスキー
出演:アレクサンドル・カイダノフスキー、アリーサ・フレインドリフ、アナトリー・ソロニーツィン、ニコライ・グリニコ、ナターシャ・アブラモヴァほか


タルコフスキー監督作品『ストーカー』(1979)を見た。題名は現在、迷惑または犯罪行為として知られているそれと同じだが、制作当時はそのような通念はなく、「そっと忍び寄る者、こっそり追跡する者」というほどの意味。『惑星ソラリス』(1972)に続くSF映画だが、『ソラリス』に見られるような近未来的、宇宙的な演出はほとんどない。

ロシア領内と思われるある地域で何かが起こり(隕石の落下とも噂されている)、住民が犠牲になったことから、当局はそこを「ゾーン」と呼んで立ち入り禁止にした。ところが、世の中には物好きな人間がいて、その「ゾーン」に行きたいという。何でも、「ゾーン」には人の願いを叶えてくれる「部屋」があると噂されているのだ。そして「ゾーン」の案内人として「ストーカー」と呼ばれる者もいる。

ストーカー(アレクサンドル・カイダノフスキー)は希望する者からいくばくかの金を受け取り、厳重な警備をかいくぐって客を「ゾーン」へ導き、「部屋」まで連れて行くのを生業としている。しかしその生活は楽なものではなく、妻(アリーサ・フレインドリフ)は「まともな仕事をしてほしい」と訴え続けるが、ストーカーは妻を振り切って仕事を始める。今回の客は「科学者」(ニコライ・グリニコ)と「作家」(アナトリー・ソロニーツィン)だった。

彼らはとある町のカフェで落ち合い、「ゾーン」行の列車が来る時刻を待って自動車で移動する。そして巡回する警備員の監視を逃れれつつ、列車の後について「ゾーン」へ侵入した。ストーカーと作家、そして科学者の三人は、時には口論し、時にはぶつかり反目しあいながらも「部屋」を目指して少しずつ歩を進めていく。彼らは何のために「ゾーン」へ来たのか、そして「部屋」は本当に願いを叶えてくれるのか。

とまあ、途中までそんな感じで進んでいくのだが、今回は「ゾーン」とは何か、という謎や、そこで何かが起きるかもしれない、という緊張感があるので、わりと退屈せずに(?)見ていることができる、と思う。『ソラリス』ほどの大仕掛けはないものの、町の中のゴミが散らばった様子とか、「ゾーン」内で軌道上を移動する車とか、かなり作りこんだに違いない。

ストーカー役の男の風貌は短髪で無精ひげが生えており、見た瞬間私(乙山)は画家のフィンセント・ファン・ゴッホを思い出さずにはいられなかった。ゴッホの自画像をいくつか見るとひげが生えていて髪も多少伸びているものが多いけれど、なぜかゴッホを思い出してしまう。しかもストーカーの人となりが何とも禁欲的で、まるで聖職者のようなのだ。

それに対して「作家」はかなり意識的に俗物として描かれており、彼が持ち込んだウオッカをストーカーは「ここではいけません」とすべて地面に流して捨ててしまう。「ゾーン」は常に変化するもので、侵入者の心の在り方次第で恐ろしいことになりかねないという。だから進むときも非常に慎重で、ボルトに包帯を巻きつけたもの(?)を投げて、変な反応がないかどうか確かめながら進む、といった具合である。

タルコフスキー映画では水が本当によく使われるのと同様に、『ストーカー』でも水が多用される。だがここでは水は多少濁り、表面に黒い油が浮いていたりして汚れているのが他と違うところで、水の底にはかつてそこで人間の生活が営まれていたことを示す物品が沈んでいるのが見える。これもやはり、相当な作り込みが必要だったに違いないと想像させられる映像で、タルコフスキー映像のすごさを感じる。

いや本当に、全体は地味なんだけどやはりすごいとしか言いようのない独特の雰囲気が映像そのものにあって、話の筋より映像そのもので引っ張っていくのがタルコフスキーなんだというのを今回も強く感じた。いつもながらしっかり理解できたわけではないけれど、どれだけ科学が進歩したとしても人間には「聖域」が必要なのではないか。『ソラリス』の根底に流れるものが「愛」だとしたら、『ストーカー』のそれは「希望」なのかもしれない。


【付記】
● 今回も恥ずかしながら全編を通してみたわけではなくて、とりあえず60分ほど見たらいったん中止して、他日見るという作戦でした。『ストーカー』は二部構成になっているので、第一部が終了した段階で止めて、という具合ですべて見ることができたわけです。長い感じはするけれど、なぜかもう一度見たくなる魅力がある作品です。


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