『ノスタルジア』

『ノスタルジア』(1983年、イタリア/ソ連映画、126分)

NOSTALGHIA.jpg
原題:Nostalghia
監督:アンドレイ・タルコフスキー
出演:オレーグ・ヤンコフスキー、エルランド・ヨセフソン、ドミツィアナ・ジョルダーノほか


以前アンドレイ・タルコフスキーの『惑星ソラリス』(1972)を見て衝撃を受け、他の作品はないものかとレンタルメディア店を探したところ、『ぼくの村は戦場だった』(1962)と『鏡』(1975)があったので借りて見た記憶がある。『ぼくの村は…』はまだいいとして、『鏡』に至っては流れる水の中に揺れる水草を延々と撮り続ける映像に度肝を抜かれた。恐ろしく退屈なのだが、なぜか見続けてしまうのが不思議で、他の作品も見たいと思っていた。

ところが、他の作品はレンタルメディア店にも見つからないし、DVDでの販売すら行われていなかった(と思う)ので、見ようと思っても見られない状態が続いていた。ところがつい最近、レンタルメディア店で「映画好きの人が選んだ云々」という企画をやっていて、ふと見るとタルコフスキー作品が三つも並んでいるではないか。思わず手に取って確かめずにはいられなかったが、いくらなんでもタルコフスキー映画を三本立て続けに見るなどという暴挙をしでかすわけにはいかず、一本だけにした。『ノスタルジア』である。

冒頭はどこかの田舎町を歩く四人の女性(?)を映したモノクロ映像で始まる。タイトルが示された後に本編へ移るのだが、自動車がイタリアのとある町でとまり、女性が先に歩きだして進むが、男性は「見たくない」と女性の後をついて行かず、女性だけがキリスト教会に入り、聖母像を見る。女性はエウジェニア(ドミツィアナ・ジョルダーノ)といって翻訳係として同行しているようだ。男性はロシア人作家のアンドレイ・ゴルチャコフ(オレーグ・ヤンコフスキー)で、ロシア人作曲家の取材をしているようである。

翌日アンドレイとエウジェニアは温泉町へと赴き、そこで周囲から変人扱いされている奇妙な男、ドメニコ(エルランド・ヨセフソン)に出会う。なんでも彼は、もうすぐ世界の終わりが来ると信じ込み、家族を長年にわたって家に閉じ込めたままにした、というのだ。すでに家族は彼のもとを去り、今は一人で廃屋のような家に暮らしている。ドメニコに興味を持ったアンドレイは彼の家に行くが、そこは雨漏りのため絶えず水が床に落ちる音がしており、壁には「1+1=1」という意味不明な書き込みがあった。

ドメニコは、ロウソクに火を灯したまま温泉の端から端まで渡ることができれば世界は救済される、と考えており、何度もそれを実行しようとするが周囲に止められている、という。別れ際にドメニコはアンドレイに、自分の代わりにやってほしい、といい、アンドレイはそれを約束する。アンドレイがホテルに戻ると、エウジェニアはアンドレイに愛想をつかした感じでローマに行くという。彼女はアンドレイに愛を求めているのだが、アンドレイは何らかの病を患っている様子でそれに応えることができないのだ。

とまあ、途中までそんな感じで進んでいくのだが、予想した通り、何たる退屈(失礼)というか、なんという時間の流れようであろう。ドメニコの家で水が天井から落下して瓶に落ちる様子や、水が流れる様子が延々と映しだされるのをじっと眺め続けることになる。おそらくそこには何の意味もないのではないか、いや何か深い意味が込められているのではないのか、などどいう交錯した思いが脳裏に去来するのだが本当のことを言えばさっぱりわけがわからない。

だが、なぜか見続けてしまうのが自分でも不思議で仕方がない。人によってはもう数分でギブアップ、となるのではなかろうか。私(乙山)は『鏡』で予習(?)を済ませているからタルコフスキー対策はばっちりで、たぶんこういう展開になるだろうと覚悟して見始めたわけだが、それでも全編一気に見るだけの忍耐力や根性はなくて、とりあえず60分見たらいったん中止して、他日残りを見たらいいではないか、という作戦を実行することにした。

タルコフスキーはこの映画を通じて何を伝えたかったのか、とか、『ノスタルジア』の主題は何なのか、とか、そういう高尚なことが私ごときにわかるはずもなく、ただただ「はあ」とか思いながら水の流れる様子とか水に映る景色なんかをきれいだなあ、と眺めるばかりである。そして変人ドメニコはとんでもない行動をするし、自分の命が危ないのにアンドレイも例の「約束」を果たそうとするのに呆れるというか度肝を抜かれる。

たしかにイタリアで撮影をしているはずなんだけど、ローマの街の中以外は(いや、ローマの街でさえも)なんだか異次元の世界で時間が進行しているような不思議な映像感覚があって、これこそタルコフスキーの世界なんだな、と思わせる魅力がある。ウェブログの記録用として写真を撮ることもあるけれど、本当は「こうであってほしい」というような空気感というか、画像の仕上がりとかいうものがあって、それが偶然に定着されるときもたまにあるけれど、ほとんどの場合「ただの記録」としての画像になってしまう。

ところが、タルコフスキーの場合、初めから終わりまで、おそらくどのカットを用いても、「タルコフスキーの絵」になっているのだ。これは本当にすごいことで、こういうのはやはり凡人にできることではないのだと痛感する。べつにタルコフスキーがわからなくたって、ちっとも構わない、あまり余計なことを考えず映像にどっぷり浸るというのがタルコフスキーの楽しみ方ではないかと思う。もちろん、それができれば、の話なんだけど……そして映像に込められた「意味」を読み解こうとするのも次の段階の楽しみ方ではないだろうか。


【付記】
● 久しぶりに見たタルコフスキー、やっぱりすごいものでした。何がすごいのかといえば、映像そのものに魅力があるんです。筋とか展開は二の次という感じで、とにかく初めから終わりまで、映像そのものにすべてをかけている感じがしました。意味は……やっぱりわかりません。いつか、意味がわかる日が来るんでしょうか。


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パラジャーノフも是非

こんにちは。

タルコフスキー、私もいけるクチです。このノスタルジアも見ました。映像美に惹きつけられるんですよね。エルランド・ヨセフソンは確かイングマル・ベルイマン作品にも出演されてたスウェーデンの俳優さんですね。

さて、グルジアのセルゲイ・パラジャーノフも映像の美しさで見せるタイプですので、未見でしたら、お勧めですよ。

Re: パラジャーノフも是非 ; yuccalinaさん

yuccalinaさん、こんにちは! コメントありがとうございます。
タルコフスキーって、ものすごく退屈なんだけどなんか見てしまうんですよねえ。
映像にすべてが捧げられている感じ、でしょうか。

> さて、グルジアのセルゲイ・パラジャーノフも映像の美しさで見せるタイプですので、

おお、さすがyuccalinaさん、乙山は知らなかったですよ。
ありがとうございます。レンタルメディア店にあるといいんですがね。
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