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Bittersweet memories about a girl

今では過去のことになったので語るに差し支えないと思うが、秋田県の某所でひっそり起きた小さな出来事を、たぶん信じてもらえないだろうけど、世界で知っているのは二人しかいないので仕方がない。生きていると稀に不思議な出来事に遭遇することもあろうが、要するに私が、若い女の子(仮にCCとしておく)におちょくられた話である。

男鹿温泉のホテルを退職した後、ハローワークの紹介で、ある会社に就職することができた。すでに配属は決まっていたが、研修として他部署でしばらく勤務する運びとなった。そこで新入社員のCCと出会い、少し話をすると、話し方で地元の人ではないとバレてしまった。関西出身だというと、「関西弁でしゃべる**が好きなんですよ」という。

よくわかんないまま、へぇそうなんだ……というと、「なにニヤニヤしてるんですか、関西弁のアイドルが好きなだけで、おじさんにはまったく興味ないですから。勘違いしないで」とくる。はぁ? べつに勘違いしてないし。ていうか、こっちもあんたに特に興味ないけどな、とは口に出さず苦笑いしたけど、なんか疲れるんだよ、こういうの。

ある日、エレベーターにみんなで乗り込んだとき、そんなに混んでいなかったと思うが、ふとCCの背中のぬくもりを感じた。6月、クールビズとやらで上着を脱いでいたのだ。すかさず同期のMちゃんが「そこ、近すぎ」と冷めた顔でいう。あ、悪い悪い、ゴメンな……って、なんで俺が謝ってんだ? 先に乗り込んだのはこっちだぜ。

新入社員歓迎の社員旅行(私も一応、新入社員だった)で、とある道の駅で休憩しているとき、果物とか野菜の乾物を売っていたので見物していると、CCが来て「只野さん、何かおごって」という。は、いつからタメぐちを、とか図々しい女だな、とか内心思いながら、笑顔で「おう何でも好きなもん買っていいぞ」とか言ってる自分が情けないよ。

ったく、全然興味ないんじゃなかったのかよ。そのくせ妙に絡んでくるわけのわかんない、でも気になる女。7月の終わり頃、車で帰る途中、小動物がいきなり飛び出してきたのでハンドルを切った結果、段差のある荒地に突っ込んでしまった。新しい仕事に戸惑いながらも事故の後遺症が重なって、精神的にも肉体的にも、もうズタボロだった。

なのに「男鹿なまはげロックフェスティバル」に会社が出店するというので、炎天下で調理補助やら販売員やらこなさないといけない。正直、立っているだけで精一杯の状態だった。私は昼過ぎからラストまでのシフトで、折をみて休憩と食事を取ることになっていた。CCは朝から昼過ぎまでのシフトだったが、有名バンドが出るので来ていたようだ。

その有名バンドのステージになって客足が遠のいたとき、休憩を取れたので布張りの椅子に座ってサンドウィッチをコーヒーで流し込んでいたら、CCが同じ椅子を持ってきて「暇だから一緒に休憩しよ」と隣に座った。なぜ「暇」と「一緒に」が結びつくのか理解できなかったが、色んなことの累積で余裕がなく、ただもう流れに任せた。

辺りはすでに暗くなっていて、遠くに明かりが見えている。出店の奥のトラックなんかが並んだ裏の暗い場所で、周囲の騒音をよそにCCと二人だけになった。なんか妙な雰囲気なんだけど、 声かける相手、間違ってない? しかも「暇だから」とはなんだ。俺はあんたの暇つぶしに付き合うつもりはない……じゃなかった、あるよ。

いや、あるのは下心か。でもCCはボソッと言ったんだ、「只野さん、休みは何してるの? 家に押しかけようか?」と。あのねえ……てか自分の言ってる意味わかってる? 世の中ではそういう会話をする男女って、即結合コースだよ? 私も何かいうべきとは思うけど、とりあえずスルーして、わりぃちょっとタバコ吸ってくるわ、とその場を離れた。

その後、私は本来の部署に配属となり、CCとは何事もなかったかのように日々は流れていったが、二人でいるのを上司に見られたのはまずかった。CCは気付いていなかったが、彼は驚いた顔をしてしばらく立ち止まっていた。彼がCCの部署のシフトを決めるのだが、もう露骨に私とCCが入れ替わりに休みを取るようにしているね。

それだけではなく、配置も彼によって決まるので、CCは違う階の配置が多くなり、私と顔を合わせることもほとんどない状態が続いた。いつしか私たちの間に距離ができ、たまに顔を合わせても以前のようではなくなった。戻るはずのない時間が巻き戻されたようだが、もうこの流れを止められないのを、その瞬間、直感的に悟った。

やがて私の部署にもCCが危ないらしい、いつ辞めてもおかしくない、という声が聞こえるようになった。残業が多くなりがちで肉体的にもハードな部署で、出会った頃からすでにCCは「もう辞めたい」とこぼしていた。もはや籠の中の鳥になったCCがどんな気持ちでいるのか、察しようもないし、察したところでどうしようもないのだ。

3月初旬になった。私の部署は中枢的であり、他部署のシフトが掲示されているのだが、そこで見てしまったのである。3月後半のCCのシフトが有給休暇の連続になっているのを。そして3月中旬には、新年度からCCのシフトに斜線が引かれているのも。そうか、決めたんだ……で終わりにしたんだね、まるで何もなかったみたいに。

もう職場の駐車場にライトブルーのダイハツ・ココアを見ることもなくなった。フロントグラスの内側に大きな初心者マークを掲げていたね。それを見るたび、CCがいるな、と思っていたのが今ではもう、CCがいないことが普通になり、かつてCCと共有した時間や情景さえも、なにか夢の中でのことで、現実ではなかったような気がしている。


【付記】
• この話は事実に基づいたフィクションです。

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只野乙山

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