トレンチコートは古着で

TrenchCoat_01.jpg
年間を通して最も寒くなるこの時期になると着てみたくなるのがトレンチコートである。だがどういうわけかトレンチコートに憧れてはいるものの、それを敬遠してきた。なぜそういうことになるのか自分でもよくわからないが、トレンチコートは自分には似合わない、という頑なな思い込みがあったのではないかと思う。

いくらトレンチコートといっても、たかがコートではないか。なんでそんなに有り難がるというか、ごたいそうに考えてしまうのだろう。なにもアクアスキュータムやバーバリーでなくたっていいじゃないか、偽物でじゅうぶん、いや偽物だからこそ、肩の力を抜いてさっと羽織って街を歩きたいものだ。新品である必要すらないと思う。

服によっては新品の新鮮さを存分に味わいたくなるものもあるけれど、トレンチコートは多少くたっと、よれっとしていたほうがいいような気がする。ただでさえごつい感じのいかにも軍服がルーツだと言わんばかりのデザインなのだ。そうだ偽物の古着、それから始めてはどうだろう。二大老舗の重圧から逃れて、さらにはハンフリー・ボガート(ボギー)のイメージからも逃れて、軽やかにトレンチコートをまといたい。

というわけで、ネット通販でそれらしいものを見つけて購入しましたよ。届いた箱をいそいそと開け、取り出してみるとこういうのが欲しかったというのにかなり近い色合いだったのがうれしい。近ごろのトレンチコートは白っぽいベージュ系のものが多く、もう少し褐色を帯びたものが欲しかった。かといって、グリーン系カーキとかチャコール系だといかにも軍服という感じがして敬遠したくなる。

写真を見ると薄めのベージュみたいに見えるかもしれないが、実物はもう少し茶系が入った色なのだ。ベージュやカーキというのは非常に幅が広いもので、写真だけ見て購入を決めても実物を見てがっかりすることがある。写真で実物に近い色再現をするのは難しいんですね。えてして外してしまうことの多いベージュとカーキだが、今回は満足できた。

ダブル・ブレステッドでロングのトレンチコートである。近ごろはショート・トレンチなどと称したものが流通しているが、それを着たいとは思わない。相当なロング丈で、手持ちのバルマカーン・コートよりさらに長いくらいである。肩のエポーレット(肩章)、右胸のストーム・パッチ、袖口のストーム・ストラップ、そしてベルトにはDリングまでちゃんと付いている。

二大老舗とは違うけれど、なかなかどうして、しっかり細部まで再現しているではないか。すっかり満足して有頂天になり、休日ではあるけれど梅田に所用があるので早速ピンオックスのボタンダウン・シャツにヘリンボーンのツィードジャケット、レジメンタル・タイをしめて出かけることにした。トラウザーズ(ズボン)はダーク・チャコールを選んだ。そしてトレンチコートを無造作に羽織る。

TrenchCoat_02.jpgいまさらネットで「トレンチコートのベルトの結び方」なんて検索するまでもない。そんなもの、適当に結んでおけばよいのだ。だけどボタンを全てはめ、ベルトをバックルでとめて中央に配すると(これが本来の正しい着方だが)、いかにも軍服みたいな感じになってしまう。ここは、あっさりいこうじゃないか。そう、ボタンなんかとめずに浴衣の要領で合わせたところにベルトでとめ、後はさっと適当に結んで終了、といきたい。

中央から右側に少しずらしたところで結び目を作った。自分は右利きなんだから、右側に結び目を作ればいい。そういえばボギーはどっちで結んでいたっけ、などと思い出そうとするなどもってのほかである。自分が勝手に作り出した、ボギーの呪縛からどれだけ離れることができるかが問題なのだ。結び目は右にするか左にするか、そんなことはどうだっていいのである。

人にどんな目で見られるだろうか、なんて気にしているのは自分だけで、人は自分が思うほど自分のことなど見ていないものである。阪急電車に乗っても、そんなにじろじろ見られることもなく、これでいいんだ、と思った。ちょっと拍子抜けしたくらいである。長の年月、つまらぬ自意識からずっとこれを敬遠し続けていた自分も相当の阿呆である。

梅田で所用を済ませ、ついでにヨドバシカメラ梅田店によって食事。休日である。ここは〈キリンシティ〉でうまいビールでもやりながらランチを済ませる。ヨドバシカメラ内はかなり暖房がきいているのでさすがにトレンチコートのベルトを外し、ベルトの先端をポケットにつっこんでフロントオープンにしてぶらぶら歩いた。

ついでに調子に乗って阪急百貨店の紳士服売り場を歩き、店先で商品を見ていると店員が近づいてきて、何かお探しでしょうか、と声をかけてくれる。昔、アクアスキュータムの売り場でトレンチコートの値札を見て腰を抜かしそうになったけれど、そのとき店員はこちらに一瞥だにしなかったものだ。それだけの年齢になってしまったわけだろうか。

すっかりいい気分で家に帰ってきてトレンチコートを脱ぎ、そうだウェブログに掲載するための写真を撮っておくか、とハンガーに吊るし、撮影する。バックも撮っておこうか、と裏返した瞬間、絶句して一人で赤面してしまった。ベルトのDリングが上を向いているではないか。その格好で、この阿呆は梅田周辺を調子に乗って歩き回っていたのである。


【付記】
● いつかは着ようと思っていたトレンチコートですが、ついにこの冬(2014年1月)、トレンチコートに袖を通すことができました。古着から始めることにして本当に正解でした。それにサイズがぴったり合っていたことも幸運で、なんだか自分のためにずっと待っていてくれたような錯覚を起こしてしまうくらいのいい出会いでした。


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