ヘレン・マクロイ 『幽霊の2/3』
ヘレン・マクロイ 『幽霊の2/3』 駒月雅子訳 創元推理文庫 (2009)
ヘレン・マクロイ『幽霊の2/3』は1956年に出版され、日本では1962年に翻訳・出版されたものの、長らく絶版だった。名前だけは聞いたことがあるが誰も読んだことがない幻の本として知られていたが、読者の要望を受けて2009年に新訳で出版された。
出版社社長アントニー(トニー)・ケインの自宅で開かれたパーティーには人気作家エイモス・コットルとその妻ヴィーラ・ヴェイン、エイモスのエージェントであるオーガスタス(ガス)・ヴィージーとその妻メグ、文芸批評家のモーリス・レプトン(レッピー)、精神科医のベイジル・ウィリング博士とその妻ギゼラたちが集まった。
エイモスはヴィーラと別居していたが、ヴィーラはエイモスとよりを戻そうと考えていた。だがエイモスにはアルコール依存症があり、何とかそれを克服して執筆を続けていたが、ヴィーラと暮らし始めれば再びアルコールに手を出してしまうのは目に見えていた。過去にもそういうことがあって、今度のパーティーでは出版社社長とエージェントがなんとしてもエイモスをアルコールとヴィーラから守るために行われたようなものだった。
ところが、その大事なパーティーに、エイモスはすでに酔っ払った状態で登場し、トニーとガスを唖然とさせた。しかもトニーの自宅の近所に住んでいるということで招待した作家志望の未亡人ペギー・ピュージーは、エイモスに厳しい批評を書いている文芸批評家のエメット・エイヴァリーを連れて来ていたのだ。和やかとはとてもいえない雰囲気を何とかしようと、トニーの妻フィリッパ(フィル)は何か簡単なゲームでもしましょう、と持ちかける。
「幽霊の3/2」をやりましょう、ということになったが、それは問題を出されたものが答えられなかったときに「幽霊の1/3」になり、次に答えられなかった場合「幽霊の2/3」となり、三度目に答えられなかった場合は「幽霊の3/3」つまり幽霊そのものとなってゲームから抜けなければならない、という簡単なもの。たとえばエイモス・コットルには次のような問題が出された。
『イギリス詩人とスコットランド批評家』の著者は誰?
ランゲルハンス島の場所は?
『人間の絆』を書いたのは誰か?
ゲラ刷りとはなにか?
人気作家エイモス・コットルは、このうちのひとつだけ正解を答えることができたが、残る三問に答えることができなかったため「幽霊」になってしまうのだが、同時にエイモスは死んでいたので本当に幽霊になってしまう、という信じられない事態が起こった。過去に殺人事件に協力して解決してきた経験のあるベイジル・ウィリング博士は警察の要望を受け、事件の捜査を開始する。
「どうやってそれをやったか?」というトリックの謎を解くのを楽しむ、というタイプのミステリーではなくて、随所にちりばめられた伏線から事件の謎を解くのを楽しむ、という感じの展開ではないかと思う。あるページまで来ると、「えっ」といいたくなる瞬間が訪れるのだが、このあたりはヘレン・マクロイの得意とするところではないだろうか。
「そりゃないでしょう」という登場人物の隠れたつながりや、「それはわからないでしょう」という奇抜なトリックがあるわけではない。その意味では真っ向勝負のミステリー。ちゃんとヒントが出されていて、それをもとに推理を展開できるまっとうな推理小説が本書「幽霊の2/3」である。それにしても、なんというエレガントな題名だろうか。名は体を表す、とはまさにこのことではないだろうか。
出版社社長アントニー(トニー)・ケインの自宅で開かれたパーティーには人気作家エイモス・コットルとその妻ヴィーラ・ヴェイン、エイモスのエージェントであるオーガスタス(ガス)・ヴィージーとその妻メグ、文芸批評家のモーリス・レプトン(レッピー)、精神科医のベイジル・ウィリング博士とその妻ギゼラたちが集まった。
エイモスはヴィーラと別居していたが、ヴィーラはエイモスとよりを戻そうと考えていた。だがエイモスにはアルコール依存症があり、何とかそれを克服して執筆を続けていたが、ヴィーラと暮らし始めれば再びアルコールに手を出してしまうのは目に見えていた。過去にもそういうことがあって、今度のパーティーでは出版社社長とエージェントがなんとしてもエイモスをアルコールとヴィーラから守るために行われたようなものだった。
ところが、その大事なパーティーに、エイモスはすでに酔っ払った状態で登場し、トニーとガスを唖然とさせた。しかもトニーの自宅の近所に住んでいるということで招待した作家志望の未亡人ペギー・ピュージーは、エイモスに厳しい批評を書いている文芸批評家のエメット・エイヴァリーを連れて来ていたのだ。和やかとはとてもいえない雰囲気を何とかしようと、トニーの妻フィリッパ(フィル)は何か簡単なゲームでもしましょう、と持ちかける。
「幽霊の3/2」をやりましょう、ということになったが、それは問題を出されたものが答えられなかったときに「幽霊の1/3」になり、次に答えられなかった場合「幽霊の2/3」となり、三度目に答えられなかった場合は「幽霊の3/3」つまり幽霊そのものとなってゲームから抜けなければならない、という簡単なもの。たとえばエイモス・コットルには次のような問題が出された。
『イギリス詩人とスコットランド批評家』の著者は誰?
ランゲルハンス島の場所は?
『人間の絆』を書いたのは誰か?
ゲラ刷りとはなにか?
人気作家エイモス・コットルは、このうちのひとつだけ正解を答えることができたが、残る三問に答えることができなかったため「幽霊」になってしまうのだが、同時にエイモスは死んでいたので本当に幽霊になってしまう、という信じられない事態が起こった。過去に殺人事件に協力して解決してきた経験のあるベイジル・ウィリング博士は警察の要望を受け、事件の捜査を開始する。
「どうやってそれをやったか?」というトリックの謎を解くのを楽しむ、というタイプのミステリーではなくて、随所にちりばめられた伏線から事件の謎を解くのを楽しむ、という感じの展開ではないかと思う。あるページまで来ると、「えっ」といいたくなる瞬間が訪れるのだが、このあたりはヘレン・マクロイの得意とするところではないだろうか。
「そりゃないでしょう」という登場人物の隠れたつながりや、「それはわからないでしょう」という奇抜なトリックがあるわけではない。その意味では真っ向勝負のミステリー。ちゃんとヒントが出されていて、それをもとに推理を展開できるまっとうな推理小説が本書「幽霊の2/3」である。それにしても、なんというエレガントな題名だろうか。名は体を表す、とはまさにこのことではないだろうか。
【付記】
● エイモス・コットルに出された問題、いかがでしょうか? このうち三問は、作家や出版関係者とか読書家などにはすぐわかる問題(一部〈?〉ですが)で、残るひとつはふつうの人は答えられないはずなんです。いったい、エイモスは何に答えることができ、何に答えられなかったか? お楽しみは本の中で。
● エイモス・コットルに出された問題、いかがでしょうか? このうち三問は、作家や出版関係者とか読書家などにはすぐわかる問題(一部〈?〉ですが)で、残るひとつはふつうの人は答えられないはずなんです。いったい、エイモスは何に答えることができ、何に答えられなかったか? お楽しみは本の中で。
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