土屋守/茂木健一郎/輿水精一 『ジャパニーズウイスキー』
土屋守/茂木健一郎/輿水精一 『ジャパニーズウイスキー』 新潮社 (2010)


土屋守『ウイスキー通』(新潮社新潮選書)を読んでからというもの、どうも日本のウィスキーが気になって仕方がない。なにしろ近頃はとても安くスコッチウィスキーが買えるものだから、日本のウィスキーをわざわざ選んで買うようなことはほとんどなかった。酒の記事が比較的多い「遊歩者 只野乙山」ではあるが、その中で日本のウィスキーの記事はまだない(2010年12月現在)。
しっかり日本のウィスキーを飲んだぞ、という記憶はというと、1980年代後半の最後の輸入ウィスキー高額時代だろうか。「これはいける、ぜひ」という近所の酒店主のお勧めでニッカの〈フロム・ザ・バレル〉とか〈ピュアモルト〉を飲んでいたんだけど、いつの間にか海外のウィスキーが安くなり、以来スコッチ(たまにバーボン/テネシー)を飲んでいる。
べつに日本のウィスキーがあまり好きではない、というわけではない。だってね、酒の量販店に行くと、サントリーの角瓶なんかがだいたい1400円くらいで売っている隣に、バランタインのファイネストとかホワイトホース、ジョニー・ウォーカー赤ラベルなどが1000円(ときにはそれ以下)で売っているわけです。
それらブレンデッド・スコッチウィスキーはかつて3000円以上した「高級品」というイメージが私などにはいまだに根強く残っていて、その高級ウィスキーが〈角瓶〉より安く売られているわけだから、わざわざ角瓶を選ぶ必要がどこにあるというのだろう、てなことになってしまい、ついつい日本のウィスキーは後回し(?)になる。
本書『ジャパニーズウイスキー』は三人の著者の連名になっているが、土屋守はウィスキー関連の本をたくさん出している世界屈指のウィスキーライター。茂木健一郎は脳科学者。輿水精一はサントリーのウィスキーブレンダーで、あの〈響〉のブレンドに携わった人。茂木健一郎が司会(進行役)を務める『プロフェッショナル 仕事の流儀』というテレビ番組に出演した関係で、本書でも茂木健一郎と対談している。
ちなみに『プロフェッショナル 仕事の流儀』はわりと欠かさず見ているつもりだったが、酒好きの私にしてはどういうことか「ウイスキーブレンダー 輿水精一の仕事 優等生では面白くない」や「農口尚彦の仕事 魂の酒 秘伝の技」を見逃すという、自分でもどうしてだか首をかしげざるを得ないことになってしまった。
さて本書の冒頭は土屋守による「ジャパニーズの逸品たち」という題のもと、響/山崎/白州/角瓶(サントリー)、竹鶴/余市/宮城峡/スーパーニッカ/ブラックニッカ(ニッカウヰスキー)、富士山麓シングルモルト/富士山麓熟樽50°/ロバート・ブラウン(キリン)など、「本当においしいウィスキー」が紹介されている。
茂木健一郎と輿水精一の対談(1)の後、土屋守によるウィスキーの基礎知識、日本のウィスキーの歴史、ウィスキーの実践編(おいしい飲み方)と続く。さっと流して書いているけれど、この中には本当、知らなかったことがたくさんありすぎて勉強になりました。
その後「日本の蒸留所」の紹介、「ジャパニーズウイスキー大全」では現在販売している日本のウィスキーを網羅し、茂木健一郎と輿水精一の対談(2)に移る。ここでは二人して訪れたスコッチの〈ラフロイグ〉や〈ボウモア〉などの蒸留所の見学体験を語る。最後に「風土の軌跡としてのウイスキー」と題する茂木健一郎の単独エッセイで本書は締めくくられている。
情報/知識の部分を土屋守が、ウィスキーを作る側の職人魂を輿水精一が、そしてウィスキーにかんしては一般人として、情緒の部分を茂木健一郎が、それぞれ担当しているといった趣であるが、それがなかなかうまく機能しており、読み物としても楽しめる構成になっている。とくに心に残ったのはあの〈響〉のブレンドに携わった輿水精一が、家で飲んでいる酒(ウィスキー)がなんであるかを語った部分。そうか、そういうものなんだな、としみじみ思った。日本のウィスキーを、じっくり味わってこなかったことをちょっぴり反省しながら頁をめくった。
しっかり日本のウィスキーを飲んだぞ、という記憶はというと、1980年代後半の最後の輸入ウィスキー高額時代だろうか。「これはいける、ぜひ」という近所の酒店主のお勧めでニッカの〈フロム・ザ・バレル〉とか〈ピュアモルト〉を飲んでいたんだけど、いつの間にか海外のウィスキーが安くなり、以来スコッチ(たまにバーボン/テネシー)を飲んでいる。
べつに日本のウィスキーがあまり好きではない、というわけではない。だってね、酒の量販店に行くと、サントリーの角瓶なんかがだいたい1400円くらいで売っている隣に、バランタインのファイネストとかホワイトホース、ジョニー・ウォーカー赤ラベルなどが1000円(ときにはそれ以下)で売っているわけです。
それらブレンデッド・スコッチウィスキーはかつて3000円以上した「高級品」というイメージが私などにはいまだに根強く残っていて、その高級ウィスキーが〈角瓶〉より安く売られているわけだから、わざわざ角瓶を選ぶ必要がどこにあるというのだろう、てなことになってしまい、ついつい日本のウィスキーは後回し(?)になる。
本書『ジャパニーズウイスキー』は三人の著者の連名になっているが、土屋守はウィスキー関連の本をたくさん出している世界屈指のウィスキーライター。茂木健一郎は脳科学者。輿水精一はサントリーのウィスキーブレンダーで、あの〈響〉のブレンドに携わった人。茂木健一郎が司会(進行役)を務める『プロフェッショナル 仕事の流儀』というテレビ番組に出演した関係で、本書でも茂木健一郎と対談している。
ちなみに『プロフェッショナル 仕事の流儀』はわりと欠かさず見ているつもりだったが、酒好きの私にしてはどういうことか「ウイスキーブレンダー 輿水精一の仕事 優等生では面白くない」や「農口尚彦の仕事 魂の酒 秘伝の技」を見逃すという、自分でもどうしてだか首をかしげざるを得ないことになってしまった。
さて本書の冒頭は土屋守による「ジャパニーズの逸品たち」という題のもと、響/山崎/白州/角瓶(サントリー)、竹鶴/余市/宮城峡/スーパーニッカ/ブラックニッカ(ニッカウヰスキー)、富士山麓シングルモルト/富士山麓熟樽50°/ロバート・ブラウン(キリン)など、「本当においしいウィスキー」が紹介されている。
茂木健一郎と輿水精一の対談(1)の後、土屋守によるウィスキーの基礎知識、日本のウィスキーの歴史、ウィスキーの実践編(おいしい飲み方)と続く。さっと流して書いているけれど、この中には本当、知らなかったことがたくさんありすぎて勉強になりました。
その後「日本の蒸留所」の紹介、「ジャパニーズウイスキー大全」では現在販売している日本のウィスキーを網羅し、茂木健一郎と輿水精一の対談(2)に移る。ここでは二人して訪れたスコッチの〈ラフロイグ〉や〈ボウモア〉などの蒸留所の見学体験を語る。最後に「風土の軌跡としてのウイスキー」と題する茂木健一郎の単独エッセイで本書は締めくくられている。
情報/知識の部分を土屋守が、ウィスキーを作る側の職人魂を輿水精一が、そしてウィスキーにかんしては一般人として、情緒の部分を茂木健一郎が、それぞれ担当しているといった趣であるが、それがなかなかうまく機能しており、読み物としても楽しめる構成になっている。とくに心に残ったのはあの〈響〉のブレンドに携わった輿水精一が、家で飲んでいる酒(ウィスキー)がなんであるかを語った部分。そうか、そういうものなんだな、としみじみ思った。日本のウィスキーを、じっくり味わってこなかったことをちょっぴり反省しながら頁をめくった。
【付記】
● サントリー、ニッカ、キリンという三大ウィスキー製造業者のほか、いままで聞いたこともないウィスキー製造業者があることも本書でわかります。あの〈オーシャンウィスキー〉はどうなってしまったのか、一部の酒の量販店で販売している、見たことも聞いたこともない、あの日本製のシングルモルトウィスキーもひょっとすると本書でわかる(見当がつく)かも……
● サントリー、ニッカ、キリンという三大ウィスキー製造業者のほか、いままで聞いたこともないウィスキー製造業者があることも本書でわかります。あの〈オーシャンウィスキー〉はどうなってしまったのか、一部の酒の量販店で販売している、見たことも聞いたこともない、あの日本製のシングルモルトウィスキーもひょっとすると本書でわかる(見当がつく)かも……
スポンサーサイト
土屋守 『ウイスキー通』
土屋守 『ウイスキー通』 新潮社 新潮選書 (2007)


題名を見ただけで私(乙山)などは思わず手に取ってしまいそうになる一冊。本書『ウイスキー通』は、1998年に「世界のウィスキーライター5人」に選ばれた筆者が、いわゆる5大ウィスキーを語ったもの。
筆者、土屋守氏は週刊誌記者を経て1987年に渡英、ロンドンで日本語情報誌の編集に携わり、帰国後ウィスキー関連の執筆活動をしている人だそうだが、Amazon.co.jpなどで見ると、ウィスキー関連の著作が次から次へと出てきて圧倒される。
なにしろスコッチ文化研究所を2001年に設立し、隔月誌『THE Whisky World』の編集長も務めるほどの、日本で最もウィスキーに詳しい人物と思ってまちがいない人であろう。いまこれを、ネットでちょっと調べて書いているんだけど、本書を手に取るまで知らなかったのだから、私の不勉強がまた露呈してしまったというわけ。
さて本書は、5大ウィスキーにわかれた各章の初めに〈総論〉としてそれぞれのウィスキーの歴史や現在の動向などが記された後、〈Q&A〉の形でウィスキーにかんするよくある質問に筆者が答えるという形式になっている。その後〈スコッチウィスキーのつくり〉などそれぞれのウィスキーの蒸留方法を述べた後、蒸留方法に関する〈Q&A〉が設けられている。
スコッチ・ウィスキーは蒸留業者とブレンド/瓶詰め/販売業者が別になっている場合が多いというのが面白いところ。日本で喩えると、巨大資本の「なんとか商会」がサントリーとニッカの原酒を買い付け、オリジナルのブレンドを作って別の銘柄で販売する、というちょっとあり得ない感じが、スコッチ業界では当たり前であることや、スコッチの貯蔵樽のほとんどはバーボン樽であることなど、トリヴィアルな話題も満載。
アメリカン・ウィスキーではバーボンとテネシーの違いや、バーボン貯蔵庫のもっともいい場所である「イーグルズネスト」、熟成中に中身が蒸散した減り分をいう「エンジェルズシェア」など、知らなかったなあ、と感心させられる。またバーボン/テネシーの主要銘柄も紹介してくれている。
アメリカ禁酒法時代(アル・カポネが君臨した時代)に飲まれていた酒の大半がカナディアン・ウィスキーであること、アメリカ進駐軍が飲んでいた酒もカナディアン・ウィスキーが多かったこと。あのカナディアン・クラブの製造秘話や、シーグラム社がどうなってしまったのか、なども本書で知ることができる。
かつてスコッチと並び称されるほど隆盛を誇っていたアイリッシュ・ウィスキーがなぜ衰退してしまったのか? アイルランドにかつて100以上存在したウィスキー蒸留所が、現在ではいったい、いくつになってしまったのか。あまり知られていなかったアイリッシュ・ウィスキーのことがわかります。
そして日本のウィスキー。「日本ウィスキーの祖」でありニッカウヰスキー創業者、竹鶴政孝と寿屋洋酒店(現在のサントリー)の創業者、鳥井信治郎との関係。なぜ「ニッカウヰスキー」は「ニッカ」なのか、竹鶴政孝が北海道の「余市」蒸留所の次に選んだ、仙台の「宮城峡蒸留所」付近に流れる川の名前はいったい?
などなど、ウィスキー好きにはたまらない、知っているようで知らなかった知識が満載の本書のような書物は、やはり手元に置いておきたいものである。いままで、知ったかぶりで書いた記事のチェックにも本当に重宝しそうである。
筆者、土屋守氏は週刊誌記者を経て1987年に渡英、ロンドンで日本語情報誌の編集に携わり、帰国後ウィスキー関連の執筆活動をしている人だそうだが、Amazon.co.jpなどで見ると、ウィスキー関連の著作が次から次へと出てきて圧倒される。
なにしろスコッチ文化研究所を2001年に設立し、隔月誌『THE Whisky World』の編集長も務めるほどの、日本で最もウィスキーに詳しい人物と思ってまちがいない人であろう。いまこれを、ネットでちょっと調べて書いているんだけど、本書を手に取るまで知らなかったのだから、私の不勉強がまた露呈してしまったというわけ。
さて本書は、5大ウィスキーにわかれた各章の初めに〈総論〉としてそれぞれのウィスキーの歴史や現在の動向などが記された後、〈Q&A〉の形でウィスキーにかんするよくある質問に筆者が答えるという形式になっている。その後〈スコッチウィスキーのつくり〉などそれぞれのウィスキーの蒸留方法を述べた後、蒸留方法に関する〈Q&A〉が設けられている。
スコッチ・ウィスキーは蒸留業者とブレンド/瓶詰め/販売業者が別になっている場合が多いというのが面白いところ。日本で喩えると、巨大資本の「なんとか商会」がサントリーとニッカの原酒を買い付け、オリジナルのブレンドを作って別の銘柄で販売する、というちょっとあり得ない感じが、スコッチ業界では当たり前であることや、スコッチの貯蔵樽のほとんどはバーボン樽であることなど、トリヴィアルな話題も満載。
アメリカン・ウィスキーではバーボンとテネシーの違いや、バーボン貯蔵庫のもっともいい場所である「イーグルズネスト」、熟成中に中身が蒸散した減り分をいう「エンジェルズシェア」など、知らなかったなあ、と感心させられる。またバーボン/テネシーの主要銘柄も紹介してくれている。
アメリカ禁酒法時代(アル・カポネが君臨した時代)に飲まれていた酒の大半がカナディアン・ウィスキーであること、アメリカ進駐軍が飲んでいた酒もカナディアン・ウィスキーが多かったこと。あのカナディアン・クラブの製造秘話や、シーグラム社がどうなってしまったのか、なども本書で知ることができる。
かつてスコッチと並び称されるほど隆盛を誇っていたアイリッシュ・ウィスキーがなぜ衰退してしまったのか? アイルランドにかつて100以上存在したウィスキー蒸留所が、現在ではいったい、いくつになってしまったのか。あまり知られていなかったアイリッシュ・ウィスキーのことがわかります。
そして日本のウィスキー。「日本ウィスキーの祖」でありニッカウヰスキー創業者、竹鶴政孝と寿屋洋酒店(現在のサントリー)の創業者、鳥井信治郎との関係。なぜ「ニッカウヰスキー」は「ニッカ」なのか、竹鶴政孝が北海道の「余市」蒸留所の次に選んだ、仙台の「宮城峡蒸留所」付近に流れる川の名前はいったい?
などなど、ウィスキー好きにはたまらない、知っているようで知らなかった知識が満載の本書のような書物は、やはり手元に置いておきたいものである。いままで、知ったかぶりで書いた記事のチェックにも本当に重宝しそうである。
【付記】
● 土屋守さんの本は、他に『シングルモルトウィスキー大全』(小学館)、『スコッチ三昧』(新潮選書)、『ブレンデッドスコッチ大全』(小学館)、など本当にたくさん出ています。ううむ、いずれもやはり手元にあったほうがいいような題名ばかりです。
● 土屋守さんの本は、他に『シングルモルトウィスキー大全』(小学館)、『スコッチ三昧』(新潮選書)、『ブレンデッドスコッチ大全』(小学館)、など本当にたくさん出ています。ううむ、いずれもやはり手元にあったほうがいいような題名ばかりです。
立川談春 『赤めだか』 扶桑社

立川談春 『赤めだか』 扶桑社 (2008)
この人は、真っ直ぐな人だ。それも馬とか鹿が付くほどの。
落語のことはほとんど知らない私(乙山)が読んでも、まったく困ることのない内容になっている。もちろん、落語のことも書かれているわけだけど、この人(立川談春)の生き方のほうが中心になっている。
ハナシのプロが書いたせいか、無駄な部分がなくてどんどん読み進めてしまう。立川談春がどのようにして落語家を志し、入門し、精進を重ね、挫折や嫉妬を味わいながら成長していく、青春記になっている。
だいたい、青春記にはその時期特有の鬱屈、憧憬と嫉妬、優越感と劣等感、清純さや含羞、異性への憧れと性の懊悩などが入り混じってどれも魅力的なのだが、私が一番初めに読んだいわゆる青春記で印象に残っているのは北杜夫の『どくとるマンボウ青春記』かな。
何より印象に残るのは、部外者(というか、ほとんどの読者がそうだと思うけど)の私の胸にぐっと来るほど深い師匠・立川談志への愛情。そして立川談志の、師匠に対する愛情が、読んだ後にずっと残るのだ。
おっちょこちょいな私は早速、「目黒の秋刀魚」の映像を600円でダウンロード、視聴して満足していたが、YouTubeに桂枝雀やその他いろんな落語家たちの映像がたくさんあることに気づいて愕然としたのでした。
落語のことはほとんど知らない私(乙山)が読んでも、まったく困ることのない内容になっている。もちろん、落語のことも書かれているわけだけど、この人(立川談春)の生き方のほうが中心になっている。
ハナシのプロが書いたせいか、無駄な部分がなくてどんどん読み進めてしまう。立川談春がどのようにして落語家を志し、入門し、精進を重ね、挫折や嫉妬を味わいながら成長していく、青春記になっている。
だいたい、青春記にはその時期特有の鬱屈、憧憬と嫉妬、優越感と劣等感、清純さや含羞、異性への憧れと性の懊悩などが入り混じってどれも魅力的なのだが、私が一番初めに読んだいわゆる青春記で印象に残っているのは北杜夫の『どくとるマンボウ青春記』かな。
何より印象に残るのは、部外者(というか、ほとんどの読者がそうだと思うけど)の私の胸にぐっと来るほど深い師匠・立川談志への愛情。そして立川談志の、師匠に対する愛情が、読んだ後にずっと残るのだ。
おっちょこちょいな私は早速、「目黒の秋刀魚」の映像を600円でダウンロード、視聴して満足していたが、YouTubeに桂枝雀やその他いろんな落語家たちの映像がたくさんあることに気づいて愕然としたのでした。