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『宇宙戦艦ヤマト2202』(DVD版、全7巻)

時間があるのをいいことに『宇宙戦艦ヤマト2』(以下『ヤマト2』)のリメイク『宇宙戦艦ヤマト2022』(以下『ヤマト2022』)をレンタルDVDで全編見た。リメイクの『ヤマト2199』が予想以上の出来だったので、かなり期待していたのだ。それにしてもいっぺんにDVDを7枚も借りるのなんて初めてのことである。

大まかな筋と設定は『ヤマト2』をほぼ踏襲しているが、『時間断層』の設定は上手いと思う。復興から3年でアンドロメダ級戦艦を数隻、そして波動砲艦隊を編成する膨大な量の戦艦群を建造するにはかなり無理があるのだが、コスモリバース・システムによって生じた異空間では時間の流れが早くなっている、とされる。

これによって旧作の無理をかなり修復できており、最終エピソードへの伏線となっている。人物設定もかなり変更されていて、ガトランティスではサーベラーとミルだろう。旧作ではズオーダー大帝の寵愛のみで成り上がった低俗な上位幕僚みたいなイメージのサーベラーだったが、『ヤマト2022』では「唯一の人間」として巫女になっている。

ミルはデスラーの監視役としてデスラー艦に送り込まれた「下っ端」で、デスラーは軽んじて相手にせぬ感じだったけど、『ヤマト2022』でのミルは一味違うんですね。ガミラス側ではクラウス・キーマンという、全男性キャラクター中でも群を抜いた美男子(?)が登場するが、キーマンという名の通り、いい味を出しているんですね。

ヤマト・クルーでは謎の女、桂木透子の存在が際立っている。敵か味方かわからないスパイみたいな役所なんだけど、空間騎兵隊ばりの戦闘能力はどこでどうやって身に付けたのか不思議。なのにキーマンにすり寄っていく場面では妖艶さに満ちている。こういうキャラは、清純派揃いのヤマト・ガールズの中では異色になるんですよね。

またデスラーを彫り込んだのも良かった。旧作では戦争が大好きな独裁者とか、復讐の鬼みたいな設定だったけど、幼少期の家庭の様子が描かれている。滅びゆく母星の運命を知り、少しでも民衆を救えるなら犠牲を払ってでも、救済計画を実行するため本当の自分を捨て、冷血な独裁者として振る舞い続けた。

どうも腑に落ちなかったのは森雪の記憶喪失問題。『2199』で彼女は「それまでの記憶を失った人」として乗組員になり、それが本作で明らかにされると思っていた。しかし作中で彼女はまたしても記憶を失い、古代との思い出が全てなくなってしまった。その女性が知らない人のために身を挺したり最後は一緒に、なんてするかなあ?

個人的には森雪が記憶を失ってからエンディングへの流れがいささか唐突に感じた。なんか「う〜ん」と思ってしまうんですよね。全体的にシリアスで、ギャグがなかったのもね。たとえばキーマンと山本玲のやりとりとかもっと見たかった気がする。古代と雪に関してはもう引っ張りすぎで、見ていてお腹いっぱいって感じなんですね。


【付記】
• 最後のほうでバーガーがちょっと出てくるのが嬉しく思いましたし、次元潜航艦のフラーケンはじめクルーたちに会えたのも良かったです。「お前らもういいよ」という感じの本編でした(おいおい)が、外伝とかスピンアウト作品に期待したいですね。

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『超時空要塞マクロス』(テレビアニメ版、1982〜1983年)

YouTubeで昔のアニメなどを見ると関連動画とか「あなたへのおすすめ」で色んな種類の動画がエントリーされるのだが、どういうわけか『超時空要塞マクロス』が入ってきて、正月後にもらった連休中につい見てしまった。あまりに寒くて表に出る気が起きぬ時など、つい昔のアニメをまとめて見てしまうことがよくある。

『ヤマト』と『銀河鉄道999』を見た後、テレビのない環境にしばらく身を置くことになり、それから活字(文字)のほうが好きになって、テレビがなくても全く平気、という状態でこんにちに至っている。だから『ガンダム』シリーズも全く見ていないし、『マクロス』も知らなかった。その映画版の主題歌を弟に教えてもらって知った。

クレジットによると原作はスタジオぬえで、制作にはタツノコプロも関わっている。タツノコプロといえばやはり『いなかっぺ大将』とか『てんとう虫の歌』、そして『タイムボカン』シリーズなどのイメージが強くて、SFアニメはどうもピンとこないのだが、戦闘機が変形してガンダムのようなロボット型(?)になるなど、中々格好いい。

異星人がもたらした宇宙船を元に改造したものが「マクロス」で、その高度なテクノロジーによって超恒星間航行が可能になり、月に飛ぶつもりがどういうわけか冥王星付近まで行ってしまい、そこから地球へ帰還する行程で物語が進んでいく。その直前に地球での戦闘に飛行機乗りの一条ヒカルと中華料理店の娘リン・ミンメイが巻き込まれる。

5万人もの民間人を乗せて交戦するたいへん不利な状況であるが、敵の狙いはマクロス本体の確保で、破壊目的の直撃弾を浴びることがないという設定になっている。ヒカルとミンメイはマクロスに乗船した後、地球に帰るつもりで小型機で飛び立つが離脱できず、何とかマクロスに戻ることができたが、そこは閉鎖ドックだった。

およそ2週間もの間、2人だけでヒカルとミンメイが過ごすうち、お互いに淡い愛が芽生えるが、はっきり意識しないままヒカルは軍に志願入隊し、ミンメイはミスマクロス・コンテストを機にアイドル歌手への道をすすむことになった。マクロスには指揮官としてヒカルのわがままを受け入れてくれる早瀬未沙がいた。

ミンメイがアイドル歌手として人気が出るに従って、自分と生きている世界が違うことを感じるヒカルだが、身近にいる未沙を次第に意識するようになる。SFロボットアニメではあるが、この三角関係の恋愛が主軸になっている。最終話の近くでは三角関係が主に描かれて弛んだ感じがしないでもないが、きっちり決着を付けているのがいい。

敵は遺伝子工学によって生み出された戦闘用の巨人兵で、文化を持っていない。そのためマクロス乗組員の生活を知ると戦慄する。男女の共同作業や同居とか、ハグやキスにそれこそ驚愕してしまう。数とテクノロジーでは圧倒的に不利なマクロスだが、文化に触れると動揺する敵の弱点を突いた、前代未聞の「歌」を歌いながら戦う作戦に出る。

比類なき荒唐無稽さに驚かされる「歌作戦」だが、文化の力によって戦闘中において敵の一部と停戦交渉し、和平にこぎつけるのも当時としては画期的だったのではないか。マクロス・クルーも日本人はヒカル、未沙と柿崎だけで、あとは様々な国の人が多種多様に混ざっているのも統合政府らしい顔ぶれと言えるだろう。

でもブリッジが艦長以外は全員女性っていったい……それにテレビ版の未沙ってなんかもっさりしてるんですよね。映画版のマクロスを先に見ちゃったから余計にね……初めて見た時、あれ未沙ってこんな人だったっけ、と思ってしまった。あ、違うちがう、そうだ私の視力低下および老眼のせいなんだね、きっと。


【付記】
• なぜか年末年始に連休が取れると、昔のアニメとか特撮を見てしまうんですよね。『銀河英雄伝説』も弟に教えてもらったのですが、何年か前に外伝まで全て見て、どっぷりハマってしまいました。

真希波・マリ・イラストリアス

『エヴァンゲリオン新劇場版』で新たに登場した真希波・マリ・イラストリアスは、NERVユーロ支部所属であること以外ほとんど不明の謎めいた少女である。だが漫画版最終巻の番外編「夏色のエデン」にイラストリアスにそっくりの「真希波マリ」が登場しており、彼女たちが同一人物だという見解が主流になっているようである。でも、これはかなり無理があると思う。

「夏色…」は1998年における京都大学が舞台になっていて、16歳で飛級進学した「真希波マリ」が碇シンジの母、碇ユイに出会うのだが、その時点でパイロットには不適合(パイロットは14歳でなければいけない*)である。しかも『エヴァ』は2015年の話。1998年に16歳だった人が2015年まで歳をとらずにいる**なんて……

* 正確にはエヴァ・パイロット適合者の条件は「母親がいない14歳の男女」だった。
** 『Q』でアスカのいう「エヴァの呪詛」(見た目が変わらない)を思い出す人がいるかもしれないが、イラストリアスが初めてエヴァに乗ったのは『破』オープニングでのベタニア基地である。


だが説明や脈絡、整合性のないのが『エヴァ』の魅力になっているのも事実。なので「夏色…」の真希波マリと、新劇場版のイラストリアスに関係があると仮定して、できるだけ無理のない推論をしてみたい。もちろんこれが「正解」であるはずはなく、どこまでも「遊び」である。こんなふうに解釈で遊べるのが『エヴァ』の楽しみの一つだよね。

2015年に14歳としてフル活動できる人は2001年1月あるいは2000年12月生まれ前後の人*だろう。その人の母親は2000年の3月〜4月頃に懐妊したと思われる。「夏色…」の真希波マリはイギリス留学した後、NERVユーロ支部に引き抜かれ、エヴァ2号機の建造に関わった。そこにはアスカの母親もいて、彼女たちは仕事を通じて親交を深めた。

* 全てが計画的とはいえ、これでは使徒襲来の時期さえも計画的だったことになる。逆に言うと「使徒が2015年に襲来する」と知っていないと、パイロットを準備できない。『序』でミサトも「よりによってこんな時に」と、シンジをNERVに呼んだのに合わせたかのように使徒が現れるのを訝しがっていた。

そんな生活の中で、真希波マリは18歳(2000年)の時、何らかの形で妊娠した。「夏色…」でユイに好意を持っていたことから同性愛者であるとされるが、先輩ユイに対する16歳の少女の一時的な憧れだったかもしれず、男性と出会って恋に落ちた可能性もある。あるいは望まぬ形だったかもしれないし、人工授精の可能性もある*。

* 「パイロットのスペア確保プロジェクト」の一環としてなら、むしろ人工授精のほうがすんなり事が運ぶ。作中ではパイロット問題の対策として「ダミープラグ」が実施されたが、おそらくゲンドウに任せては埒があかないと業を煮やしたゼーレ主導だったと思われる。

そして2000年の終わり頃から2001年の初め頃にかけていずれかの時期に女の子を出産し、「イラストリアス」と名付けた。ミドルネームは自分と同じ「マリ」にした。出産後も仕事は多忙を極め、育児に専念できなかったと思われるが、エヴァ建造は国家プロジェクトであるため、NERVユーロ支部は真希波マリ母子をできるかぎりサポートした。

後にイラストリアスが真希波を名乗っていることから、父親の影は薄く、ほぼ父親不在の環境に育った* と思われる。あるいは養護施設のような所に預けられたのかもしれないが、やはり住居を与えられ、ハウスキーパー兼養育係も手配されたのではないか。なので真希波母子は多くの時間を共有できたのではないかと考えられる。

* パイロットたちが「仕組まれた子どもたち」だとすると、上述の計画の一環として「人工授精」または「望まぬ受精」が行われた可能性はかなり大きくなる。ユイが初号機でどうなったか知った真希波マリが、パイロット確保のために人工授精を受け入れたとすると、父親の不在は極めて自然な結果となる。

イラストリアスは、いちパイロットとしてはあまりにも多くのことを知りすぎている*が、だれか(母マリや加持?)からエヴァやNERV、そしてゼーレのことを聞いたと考える他ない。通常なら国家機密扱いの情報で子どもに話す内容ではないのだが、持ち前の「知りたい、乗りたい」欲求から少しずつ大人たちから情報を引き出していった**のではないか。

* 2号機に乗っていきなり裏コードを発令し、リツコ以外の全員が驚いていることなどから、おそらくミサト以上に「知っている」ことは多そうである。
** ハッキングの名手でもない限り、極秘情報を入手するのは不可能である。子どもにできるのはやはり「知っている人に教えてもらう」ことしかないし、それに応える「だれか」がいたということだろう。


母親が精神不安定状態になってほとんど会話できず、ひたすらパイロットしての教育や訓練を受けたアスカとの違いはそこにある。例の「ゲンドウくん」は、母子の会話の中では共通の呼び名になっていたのだろう。ただ『Q』でアスカが「コネメガネ」と呼んでいることから、アスカとの交流は全くなかった。

しかし母マリからアスカのことは聞いていた。『Q』でアスカを「姫」と呼び、パイロットの後輩としてアスカを立てているのも事情を知っているから(?)こそであろう。アスカに好意を寄せているという見方もあるが、穿ち過ぎかと。例の三角関係でもうお腹いっぱいなので、立ち位置としては中立もしくは異色のぶっ飛びキャラ*にするしかないよね。

* 『破』で初めて2号機に乗った時も司令室と回線を断つという破天荒のぶっ飛びぶりを見せていた。美少女なのに中身はオッサン、みたいな設定だろうか。作戦行動中に昔の歌を歌うのは彼女の定番行動になっているようだが、これをもってゲンドウやユイと同世代とするのは苦しい。彼らの世代にとっても歌が古すぎる。

最後に真希波マリはどうなったか? 「エヴァ・パイロットの条件」に準じているとするなら、やはりすでに亡くなっている* と考えられる。2号機建造の後、NERVアメリカ支部の要請で4号機の建造に加わり、そしてあの事故に巻き込まれたというような展開がドラマティックではあるが、時期的に苦しい設定でいささか無理があるだろう。

* イラストリアスが初めてエヴァに乗る際、加持は「お前は問題児だからな」と言っていた。父親の不在と母の死を抱えた少女は、アスカやシンジとは違ったやり方で自分のアイデンティティを確立していくのだが、それが「問題児」として周囲に映ったということだろう。


【付記】
⚫︎ この記事を書くにあたって『新劇場版』を再視聴しましたが、やはり『Q』はキツいですね。正直、なんのことかサッパリわかりませんでした。次の『ファイナル』でも説明はないでしょうし、幸福なエンディングもないと覚悟したほうがいいでしょう……そもそも公開延期するかもしれませんし。

光速を超える、だと?

『宇宙戦艦ヤマト』のリメイク『ヤマト2199』はレンタルDVDで見たんだけど、想像以上の良い出来だった。そして『ヤマト2』のリメイク『ヤマト2202』も制作されてまず映画館で上映されたのだが、東北は仙台止まりで秋田には来てくれなかった。って、別に悲しく思わないけど、もしも秋田市内で上映されたら行ったかもしれない。

『ヤマト』の話を可能(?)にしているのが恒星間航行技術(ワープ)であろう。何しろ大マゼラン雲まで光速で10万年以上かかるところを、1年以内に往復しないといけないのだ。リメイク版では踏み込んでいなかったが、旧作ではわりとしっかり説明していたように思う。幹部クルーが作戦室に集まって、真田(工場長)と島(航海長)が説明していた。

たしか時間の流れを「波」で表していて、我々の世界は波の線上に沿って進む「点」だった。そして「波動エンジン」を使って、波のピークからピークへ「ジャンプ」することで通常の時間の流れを上回る速度で進むことができる、と。作中ではこれによって人類が初めて光速を突破した、と説明され、数分間で月から火星へ「ワープ」していた。

当時は「なるほど」と思ったのだが、いま振り返ってみればどうなのだろうか? あの説では時間も空間も光も「世界」として「点」に集約されていたのだが、それだと全てが等速になる。だが光は、あの時間の流れの波を「外部から照らす光源」であって、波のピークからピークへジャンプしても不変(どのピークも同時に照らしているから)である。

そもそも物体(質量)の移動速度をどれだけ加速しても、質量のない光(電磁波)にはかなわないのだ。アインシュタインの方程式「E=mc2」を見ると、光速は定数(不変)なので、等号で結ばれているかぎり片方が増大すれば、もう一方も必ず増大する。つまり「速度が増す→運動エネルギー増大→質量増大→加速に不利」となる。

しかも、ヤマトが光速を突破しなくても光速に近い速度で移動した場合、ヤマト船内時間は地球時間より遅くなる*ので、ヤマト船内時間で1年以内だとしても、帰った時点で人類はすでに絶滅している可能性が大きい。『猿の惑星』はこの現象を利用して制作された映画だが、『ヤマト』では地球とヤマトがシンクロ(同期)していた。

ていうかそこに踏み込んでしまうと話が成立しなくなってしまうよね。光速の突破と時間の相対的遅延はとりあえず保留して、ワープとは、エンジンの出力を上げて物理的に光速を突破するのではなく、時空の歪みを発生させて人為的にワームホールを作り出し、別の離れた空間へ移動することだ、と解釈すればいいのではないか。

『ヤマト2199』ではこの点を強調してバラン星から大マゼラン雲の手前までジャンプできる「亜空間ゲート」を設定していた。これがないと、そもそもガミラスが地球に侵攻することすら不可能なほど宇宙は広大なのである。だから地球と250万光年離れたアンドロメダ銀河を往復する銀河超特急は途方もない話なんですね。

でも、ですよ。もしも亜空間とかワームホールが実在するとして、その入口と出口がn光年離れた地点にある、とします。そこに私たちが入口ゲートから入って、n年以内に出口ゲートを通過したら(移動速度は光速未満の任意とする)、光速を超えて存在していることになるの? この場合、相対性理論における時間の変化は適用されるのか?

たしか亜空間では物理法則があてにならず、ショックカノンは撃っても無駄だった。なので当然、相対性理論も通用しないと考えたほうがいいだろう。もはや何があっても不思議ではないのだが、でもこれはフィクションの常識ではなかったか。だけどまあ、それはさておき『ヤマト2202』をDVDで見るのが楽しみだし、その続編も制作決定されているとか。

個人的には旧作『ヤマト』でじゅうぶんで、『ヤマト2』までが精一杯、あとはもう「ついていけない」ので知らなかったんだけど、現制作スタッフなら何か違ったことをやってくれるのではないかと期待している。原作ではついになかった(と思う)ハッピー・エンディングだけど、あってもいいんじゃない?

* 世界中のどこにいても「時間の進み方は同じである」と信じたい。だが超高速で移動する物体内における時間は、それを外から観測する時間より遅れる。アインシュタインによって初めて明らかになったことで、音速ジェット機による実験(実測)によって正しいことが証明されている。

【付記】
⚫︎ 言うのは野暮とわかっていても、ついツッコミたくなるのが「ワープ」です。舞台は変わっても、私たちが惹かれるのは結局のところ「人間劇場」なんでしょうね。

『新世紀エヴァンゲリオン』(テレビアニメ版)

『新世紀エヴァンゲリオン』(テレビアニメ、リニューアル版、レンタル用DVD全8巻)

NeonGenesisEvangelion_TV.jpg
原作:GAINAX
監督:庵野秀明
脚本:庵野秀明
キャラクターデザイン:貞本義行
声の出演:緒方恵美、林原めぐみ、三石琴乃、宮村優子、山口由里子ほか


忘日、レンタルメディア店でまたぞろ映画を借りようとしていたのだが、2本はすでに決まっており、後どうしようかな、ということになったとき、何かアニメでも見ようかという気になった。『ヤマト2199』が良かったからだと思うけど、特に見たいものはなかった。だが、以前から名前だけは知っていた『エヴァンゲリオン』を思い出し、レンタル用DVDの1、2巻をつかんだ。

数話見て感じたのは、敵は「使徒」らしいのだが、彼らが何者で、どこから、何のために来るのかよくわからないし、使徒を操る「悪の組織」みたいなものが不在であることだ。単純明快な「善と悪の対決」という構図になっていないのが不思議なところで、使徒と戦う超法規的組織「ネルフ」がどうやって生まれたのか語られるのは終盤近くの第21話なのだ。とにかく第一印象は「よくわからない」だった。

普通のアニメだったら、正義=格好良いデザインで、悪=グロテスクなものと相場は決まっているはずなのだが、『エヴァンゲリオン』では敵の使徒のデザインがどこかユーモラスなものに感じられ、むしろエヴァ初号機のほうがどこか怖い感じがする。それに、なんで敵に使徒(英語では apostelではなく angel があてられている)という名前が付けられているんだろう。そもそも「使徒」とか「天使」は「神」の使いだから、それらと戦うって、つまりエヴァンゲリオンを使ってネルフが戦っている本当の敵って……

エンディング曲はジャズの "Fly Me to the Moon" が一貫して使われているのだが、これがボサノヴァ調だったり、ジャズ調だったりして、その回の内容に合わせて少しずつ変更した別ヴァージョンが使われている。この雰囲気はどうみてもお子様相手じゃないですね。少年(中高生?)向けアニメの体裁をとりながら、じつは『宇宙戦艦ヤマト』と『ガンダム』を見た世代、20~30歳(またはそれ以上)が本当のターゲットじゃないかと思う。

主人公は碇シンジという少年で、父親はネルフ司令官、母親はすでに亡くなっている。親戚に預けられて育つシンジは、父親に捨てられたという思いを抱いている。気弱で内向的、非社交的な少年が、いきなりネルフ本部に連れてこられて奇妙なロボットに乗って、恐ろしい敵と戦え、と言われるのだ(!)。そりゃ、引きますわなふつう。引き込まれ型のアンチ・ヒーロー、ということなんだろうけど、シンジの反応は無理もないだろう。

そのシンジが、ネルフ上司の葛城ミサトと同居することになり、後に2号機パイロットのアスカもそこに加わり、学校の同級生たちと交流することによって次第に心を開いて成長していく姿を描く、というのがたぶん本筋で、そこにどこか人間離れした0号機パイロットの綾波レイへの淡い恋心も添えられていき、視聴者を引っ張っていく。第1~16話まではどこかコミカルな感じも入っていて楽しく見ていられるが、17話から後はシリアスな展開になっていく。

話が進むにつれて少しずつ情報が開示されていくのだが、本当の敵はだれなのか、全貌はいったいどうなっているのか、それらについてはついぞ語られず、多くの謎を残したまま、25話、最終話を迎える。視聴者はミサトや加持と一緒にセカンド・インパクトの真相、ゼーレとネルフ(碇ゲンドウ)の真の目的を探っているのであり、謎解きゲームとしても楽しめる(実際にはヒントが少なすぎるのでゲームは成立しない)内容なのだが、最後でついに、今までわからなかった「謎」が解明されるというのだろうか?

だが問題の25話、最終話はご存知のようにシンジの内面世界を描いたもので、外で何が起こっているのか、まったくわからないのである。「人類補完計画」と「サード・インパクト」の実態、そして「世界は最後にどうなったの?」などがまったくわからないまま「おめでとう、さようなら、ありがとう」で終わり。もちろん、全貌の謎解きがあるわけでもなく、シンジ達がその後どうなったのか、などもわからないまま本当に終わってしまうんですよね。

ううむ、まいったなあ。このエンディング、色々小出しにした「アダム」とか「ロンギヌスの槍」、「ネルフの地下の巨人」をはじめとした伏線が回収できず、謎が残りすぎたんじゃないだろうか。制作スケジュールが詰まってしまったのか、予算の問題をクリアできなかったのか真相は「藪の中」なんだけど、世の中ではこういうのを「破綻」というんじゃないのかな。テレビアニメ版『エヴァ』は、なんだかよくわからない話が本当にわからないまま終わってしまったアニメ、と言えるでしょう。

衝撃のエンディング、とか言われたそうだけど、テレビアニメだから良かったものの、映画だったらブーイングの嵐になっていただろう。終わりのない、いろんな解釈ができる最終部分なんだろうけど、なんだか納得できないものを感じた。残念に思うのはトウジを3号機パイロットにした結果、学園ドラマを封じるしかなく、16話までの雰囲気を継続できなかったこと。ここは微妙な所で、「後半の陰鬱な展開こそエヴァンゲリオンだ」と感じる人も少なくないだろう。

だが「本当のエヴァ」とは全体なので、軽妙な前半なくしては「エヴァ」にはならないと思う。それにしても「全貌」をつかむには情報の少なさは致命的で、回収できなかったのか、意図的に隠したのか真相はわからないが、与えられた情報だけで全貌を類推するのは不可能。ところが、その「わからなさ」がかえって魅惑的なものを生む求心力になっているようで、「解釈の多様性」とか「知りたがる者」と「語りたがる者」をたくさん生み出したのだと想像する。

『エヴァンゲリオン』が社会現象になったのは、まず作品自体に魅力があったことが大原則。つまらないものは広まらないでしょう。そして、あのエンディングに食いついた論議がテレビを通じて報道されたことで、『エヴァ』自体を知らない人たちまで認知度が高まった。またエヴァの「わかりにくさ」から発生した「知りたがる者」と「語りたがる者」の結節点としての「情報の共有=ネットワークの確立」が重要だったと思う。

アップルコンピューターのようなGUIを備えたWindows95の登場によって、それまで象牙の塔のようだった(DOSコマンドを使えないと話にならない)パソコン環境とネットワークの底上げが一気になされ、情報の共有が可能になった。ある事象が社会的になるには、不特定多数の「同時経験(テレビ≒マス・レベルのメディア)」あるいは「情報の共有と交換(ネット)」が不可欠で、おそらく『エヴァ』はこの二つを同時に満たす初めてのアニメ作品だったのではないか。

当時、泡沫経済の崩壊による金融関係機関の破綻が出始め、従業員の整理解雇が相次ぎ、新卒学生の就職は絶望的な状態の只中で、1$=79円台というものすごい円高が進んだ。そして阪神淡路の大震災が起き、さらにカルト教団による無差別殺人とその終末思想(ハルマゲドン)も世間を賑わしていたことも忘れてはなるまい。暗鬱たる社会の雰囲気を背景に、情報の共有と交換ができる土台が整おうとしているタイミングにちょうど同期するかのように、「世界の終わり」というテーマを内包する『エヴァンゲリオン』が登場したのだった。

なんか長くなったなあ。話は短めにしろよって思うんだけど、あと少しだけ言わせてもらうと、レイのシンジに対する心情の変化が急すぎる気もした。それまでシンジの言動にちょっと頬を染める程度だったのに、23話でいきなり「一緒になりたい」はいかにも唐突な感じがして、見ていて「えっ、そんなこと言うかなあ」とか思ってしまった。漫画化版ではそのあたりを実に見事に「補完」していて、無理のない展開だった。テレビアニメ版が原作で、漫画はあくまでその漫画化のはずなのに、漫画化版が原作でテレビアニメがその簡略版であるかのような、不思議な感じがした。


【付記】
● なんだかなあ、と思って漫画化版、いわゆる『貞本エヴァ』も電子書籍で購入し、思い切りどっぷりはまってしまいました。こちらは時間をかけ、テレビアニメ版と旧劇場版、カットせざるを得なかった部分を下敷きにしているだけあって、納得できるものを感じました。きちっと環が閉じている感じがするのです。

貞本エヴァにおける「父と子」の問題の扱い、アスカの復活の詳細、ミサトとの別れ、そしてレイとの最終部分で降る雪(レイ03のはずなのに「この顔で合ってる?」って笑顔でお別れ)……エンディングも良かったです。遺跡となったエヴァ、意外な出会い、そして最後にミサトのペンダントとともに未来に向かって歩むシンジ……心に残りました。

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只野乙山

Author:只野乙山

⚫︎ できれば「只野乙山=ただのおつざん」とお読みくだされば、と思います。

⚫︎ 文字中心のウェブログ。ほとんど一話完結で、どの記事をご覧になっても楽しめ(?)ます。文字数だけなら一冊の本に匹敵(凌駕?)するほどありますので、ごゆっくりどうぞ。

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