近海の天然物のヒラメを食う

Hirame_Fillet
休日が楽しみなのは、好きなものを食べられるからだろうか。普段、職場の賄いご飯を食べており、給食みたいな感じなんだけど、どうしてもそんなに好きじゃないものを食べざるを得ない時ってありますよね。例えばシシャモ(もどき)とかニシンとかって、はっきり言って、あんまり好きじゃないんだ。

本当は「三食付き」の契約だから、休日でも食べ物の心配をしなくていいはずなんだけど、休日は実家に帰る従業員がわりといて、その伝で「休みの人はご飯なし」みたいになっていった結果、私も休みの日はご飯なしで通るようになってしまったわけ。まあ、その方が気兼ねせずに自由にできるからいいかもね。

男鹿は北浦漁港とか船川漁港など漁港がたくさんあって、近海の天然物の魚が食べられるのが良い。その有り難みはあんまりよくわからなかったけど、近隣の「たかはし鮮魚店」でヒラメのサクを買って食べてみたところ、そのうまさに驚いてしまい、漁港が近いって良いもんだなあ、と後になって気づいたんである。

さて今日は休日、しかも月曜日ではないので、以前から行きたいと思っていた店に行ける絶好の機会である。なのにどうしたわけか、行動力というかやる気っていうの? そういうのが出なくって、なんか近場でさくっと済ませて昼ビールでも飲もうか、みたいな気分なんである。何だろう、ひょっとして更年期障害ってやつ?

何かの花粉がアレルゲンになっているのかなあ。どうも風邪をひいて体調がすぐれず、などど言っている人の多くが、じつは花粉アレルギーだったりすることも多いという。微熱が出て、鼻水が出ることもあり、風邪の症状と非常に似ているのだ。よくわかんないけど、体調が万全ではなく、体から湧いてくるような力を感じられない。

そんなわけで、今回は近隣の「たかはし鮮魚店」でヒラメのサクを買ってきましたよ。少し小さめで250円。11時過ぎに行ったから仕方ないかもしれないが、これ意外と大きいんですよ。これくらいの大きさのヒラメだったら、都会だと800円くらいだろうか。画像一枚目の下の方、黒っぽくなっている部分が「エンガワ」です。

Hirame_Sashimiこれを、できるだけ薄くそぎ切りにして「薄造り」をやってみましょう。画像二枚目が、やってみたものです。1000円以下の汎用小型ステンレス包丁、しかも私が研いでいない状態だからこんなものでしょう。刃渡りの長い刺身包丁があると、もっと薄く綺麗にできますが、手入れが大変なのね。これね、都会の店だったら平気で1500〜2000円くらいとりますよ。

それを、たった250円で味わえるってのが「漁港が近い」ってことなのだろうか。食べてみると、やっぱり甘い。そして柔らかく、ど素人(乙山)が分厚く引いてしまったとしても、全く大丈夫。エンガワってコリコリしてて旨いです。一人分だと、これで充分ですね。また食べたくなる、というか、もはやそうせずにはいられない魅力が、近海の天然物の魚にはあるのだと思う。


【付記】
⚫︎ またしてもヒラメを堪能させてもらいました。食べるたびにノックアウトさせられるのですから、どうしても「もう一度」となるわけです。やはり実物の写真があるといいですね。乙山が吹いているだけではないとわかってもらえますから。

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久しぶりのカー・オーディオ?

mira_gino_audio
長年カー・オーディオには無関心だった。決して目を背けていたわけではなくて、たんに車に乗る必要がなかったのでカー・オーディオも不要だったわけだ。車に乗った最後の頃、1980年代後半のカー・オーディオはカセットテープが主流だったのではないかと思う。発売されたばかりのCDを、車で聴くという発想自体がなかったのではないか。

今だったら、大容量メモリから音楽再生は可能だが、当時は大容量のメモリがなく、CDはオン・ザ・フライ方式で再生するしかなかった。ローディング・ミスは許されないので、低速で回転させ、振動(針飛び?)にも対策をとる必要があった。まさに、初期のCDプレーヤーは、アナログLPプレーヤーをなぞるようにして登場したと言える。

LPプレーヤーをクルマの中で再生するなど、断じてあってはならぬことだったし、アナログ再ブームの今でも、そんなことをする人はいないだろう。初期のCDはLPとほぼ等価だった(実際3000円以上した)わけで、それを事もあろうにクルマで再生するなんて、という感覚があり(?)、カセットテープが幅をきかせていたのではないかと思う。

さて、時は流れて、どういう運命の巡り合わせか、再びクルマに乗ることになった。中古のミラ "ジーノ" には純正のカー・オーディオ装置が付いている。見ると、CD/MD/ラジオが再生できるシステム。なるほど、2004年にはCDをクルマで再生するのに抵抗がなくなっており、カセットテープの代わりにMDが装備されている、ということか。

外部入力やUSBスロットは付いていない。すると、2004年頃ではまだブロードバンド環境は整備中で、音源をダウンロードするという発想が普及していなかったと思われる。またUSBテクノロジーも未熟で、メモリもまだ高価だったと想像できる。MDとか使ったことがないんだけど、わりと普及していたのだろうか。

でも、これでは昨今主流のiPod/iPhoneやデジタル式携帯音楽プレーヤー、または各種メモリに保存した音楽ファイルを再生することはできない。最後の手段として、音源をトランスミッターで介してカー・ラジオで拾って再生することは可能だが、音源品質が下がってしまうので、あまりやりたくない。

秋田に移ってくる際に、所有物のほとんどを処分してしまった。だからかけるCDもさほどないし、MDはもはや過去の遺物でしかなくなった。せっかくの純正システムなんだけど、たぶんCDもMDも使わないと思う。現状を考えると、他社製の最新カー・オーディオを導入するしかないような気がする。

しかもある事情から、所有CDやレンタルCDをすべてFLAC形式でリッピングしてしまった。FLACファイルを再生できるシステムは限られていて、たぶん選択肢は少ないだろう。選ぶとしたら、CDなどの回転系は一切なしの、USBスロットか外部入力端子を備えた(できればbluetooth対応の)シンプルな音楽プレーヤーになるだろう。

だけど……何かでポイントがたまっているから使えますよ、というので入手したiPodシャッフル(4GB)、全然使ってないんである。これも何とかしたいなあ。もうね、音質が落ちてもいいから、シガーソケットにトランスミッターを付け、iPodシャッフルを再生するお手軽路線に流れてもいいじゃん? 全交換はとにかく面倒くさいのである。


【付記】
⚫︎ CDは使わない、と記事に書きましたが、なぜか手元に残っていたドルッティ・コラムやプレズ&レディ・デイのCDをかけていたりするんです。カー・オーディオでは、本当に好きな曲だけ選んでシャッフル再生したいので、iPodシャッフル&トランスミッターが向いているのかもしれません。

しそわかめオルタナティヴ

Uonoya_Shisowakame
以前、山口県の萩に行った時、大衆食堂みたいなうどん屋に入った。観光案内に「肉うどんが美味い」と書いてあるという安易な理由だが、初めて行った土地で地元の人しか行かないような名店を探り当てるのは難しい。肉うどんは特筆すべきものではなかったけれど、セットで付いている「わかめむすび」がたいへん気に入った。

三角おにぎりの全面に細かく刻んだわかめがまぶしてある。ほおばると、何とも美味いではないか。白ご飯を菜っ葉で包んだ「めはりずし」も大好きだけど、それに比肩すると言っていい味わいで、翌日も「肉うどんとわかめむすびでいいよ」と思ったほどである。そのわかめむすびに使われているのが「しそわかめ」だと知ったのは後の事である。

しそわかめは「生タイプのふりかけ」で、細かく刻んだわかめにシソを混ぜ、塩で味つけをしたもの。萩の井上商店が有名で、以前記事に書いたほどである。井上商店のはゴマが入っており、シソの香りがよく効いているのが特徴。炊飯専用の土鍋で炊きたてのご飯にしそわかめをかけ、ほうれん草とあぶらげの味噌汁があれば、他はいらないほどだ。

大阪でならほとんどのスーパー市場で井上商店のしそわかめが買えるので、食卓には欠かせぬものとなってしまった。ところが、秋田に来てからというもの、井上商店のしそわかめが「お取り寄せ品」になってしまったのである。単に見落としているだけかもしれないが、どこにも売っていないではないか。

まあ、しそわかめがなかったら死ぬわけでもあるまいが、朝、さくっと朝食を済ませてしまいたい時など、あると本当に便利なのである。かりに、生卵としそわかめのどちらかを選べ、ただし選んだものとその後一生付き合って行かねばならぬ、という条件があるとするなら、私はしそわかめを選んでしまうかもしれない。

某日、ドジャース男鹿店で買い物をしていると、なぜか急にギクリとして立ち止まってしまった。それは、ふりかけを並べた商品棚ではなく、男鹿産の魚を並べてある売り場の隅で、「しそわかめ」の文字を見かけたからであった。井上商店のものではないと一目でわかるけれど、つかんで買い物カゴに入れずにはいられなかった。

「生タイプ ふりかけ 梅入り しそわかめ」などと書いてある。裏を見ると製造者は株式会社魚の屋とあり、島根県の水産会社のようである。同社HPを見ると、「島根の家庭で昔から親しまれてきた『しそわかめ』を手軽に全国の食卓へ」とある。なるほど、しそわかめは萩の特産品というわけではなくて、山陰地方で広く食べられているのだろう。

食べてみると、うむ、そんなに悪くない、ていうか、なかなか美味いじゃないか。さすがに井上商店には届かないにしても、業務スーパー物よりうまいんじゃないかな。値段も100円以下だったので、次にドジャース男鹿店に行った時、何袋かまとめ買いしてしまったほどである。

魚の屋のしそわかめは「鮭入り」とか「明太子入り」など色々あるようだけど、ドジャース男鹿店には3種類くらいしか置いていない。個人的には「梅入り」が好みで、他に色々浮気をしても(?)最終的には「梅入り」に帰ってきてしまう感じである。魚の屋しそわかめのおかげで長い冬を越せた、といっても過言ではないほど、よく食べた。

ところがある日、脇本のダイソーで、何と魚の屋のしそわかめがあるではないか! ダイソーでは食品をあまり買わないけれど、その日はビスケットの類を物色していてたまたましそわかめを見てしまったのである。なあんだ、ドジャース男鹿店だけじゃなかったんだ、と妙に気抜けしてしまったじゃないか。ってことは、ひょっとして、全国的には井上商店よりメジャーなのだろうか。


【付記】
⚫︎ まさか、100円均一店でしそわかめが買えるとは思っていませんでした。ダイソーが魚の屋を口説いたのか、魚の屋がダイソーに持ちかけたのか、経緯は不明ですが、100円均一店経由なら「手軽に全国の家庭へ」も可能でしょうね。果たして、全国どこのダイソーにもしそわかめがあるんでしょうかね。

ビスケット作戦、餅作戦

Biscuit
4月からホテル(温泉旅館)の料飲スタッフとして勤務しているが、これがけっこう、きついのである。そんなに楽な仕事なんてあるものか、とは重々承知しているつもりだが、やはりきつい。肉体的な重労働ではないけれど、夜は10時を過ぎることもあり、そして朝は朝食の準備があるので6時半前から活動しないといけない。

遅い夜と早い朝の組み合わせが何を意味するか、何がどうきついのか、これだけではわからないだろうけど、要するに飲んだくれていられない(深酒できない)のだ。もう若くないので肝臓のアルコール分解能力が落ちているのか、6時間かけても朝に酒が残ってしまうことがあり、具合が良くないのである。

夜の10時くらいに寮に帰って来ると、1時間くらいしたら「そろそろ寝なくちゃ」である。深夜0時を過ぎて酒を飲むなど以ての外、となってしまった。お酒大好き人間としては、これきついなあ。だが接客業である以上、従業員が朝から酒臭いようでは困るので、そこはしっかりと自戒しないといけない。

また、朝食はお客様が帰った後でとる決まりなので、早くて9時半過ぎ、遅ければ10時過ぎになる。晩御飯はだいたい8時過ぎになるので、13時間以上何も食べない状態になる。昼ご飯は1時か2時頃だけど、おやつを食べなければ、確実に腹が減ってしまう。つまり、下手をすると朝も夜も、常に空腹の状態で接客しないといけない羽目になる。

何か上手にやり過ごすというか、巧い作戦はないものだろうか。朝は時間的余裕がないので、フル朝食というわけにはいかない。結局、睡眠時間を削るだけだ。さっと食べられてある程度腹持ちの良いものって何だろう。まず思い浮かんだのがビスケットである。ヨーグルトとシリアルというのも良いが、冷蔵庫がないから無理である。

そこで、船川のドジャースで昼食と夕食の食材などを買ったついでに、ビスケットを物色することにした。個別包装で、そんなに砂糖とかバターをたくさん使っていない物が良い。だけど、シリアル・ビスケットなんて洒落たものは置いてないんだよな。だから東鳩製菓の「オール・レーズン」と「ハーベスト セサミ」にしましたよ。

日本ではバターと砂糖を多めに使ってしっとり焼いたソフト・ビスケット(クッキー)に人気があるようだけど、健康を考えるとホール・ウィートや他の雑穀を混ぜたのにドライ・フルーツを混ぜ込んで焼いたものがいい。でもそんな気の利いた菓子などないからね。ハード・ビスケットとなると、プレーン・クラッカーみたいなのしかないし。

それからすると、「オール・レーズン」とか「ハーベスト」は良くできた方ではないかと思う。どちらも甘さ控えめなのがいいね。とりあえず試し、ということで、オール・レーズン2枚とハーベスト4枚(個別包装分ね)をコーヒーと一緒に食べ、朝の仕事をやってみた。あ、全然ダメ。本当に持たせるなら、倍量にしないといけないようだ。

Echigo_Kirimochiでもそれだと、お金がいくらあっても足りないな。保存がきいて、すぐ食べられて、腹持ちのいいものは何かないだろうか? 腹持ちがいい物って、そうだ餅なんかどうだろう。正月に雑煮で餅を食べた後、腹が空くまでけっこう時間かかったように覚えている。 というわけで後日、やはり船川のドジャースで越後製菓の「越後 切り餅」を買ってきた。

調理方法は裏面に書いてある。電子レンジ、オーヴン・トースター、鍋のいずれでも調理できるようだ。その朝は昨夜のテキトー鍋のおつゆが残っていたので、味どうらくの里を少し加えて、餅2個と残った水菜も一緒に入れて煮餅を作ってみた。あ、熱っ! 煮餅ってよく伸びるよね。だけどこれ、夏は無理だな。絶対。

さすが餅だけあって、腹持ちが良かった。いつも腹減ったなあ、とか思いながら仕事してるんだけど、今回は少しマシだ。マシのような気がする、ではなくて、本当に大丈夫だった。越後の切り餅1kg=400円くらいで、餅1個が約50gなので2個ずつ食べて10回はいける計算である。栄養面は疑問だが、餅作戦はとりあえず成功したと思う。


【付記】
⚫︎ 後日、某所で買い物をしていたら、東鳩製菓の「オール・アップル」なるものを発見して、一人でびっくりしていました。えっ、と思って早速買い物カゴに入れました。食べてみると、アップルパイのような味わいで、本当にリンゴなんだ、と思わせる美味しさでした。

また、日清シスコの「ココナッツサブレ」も個別包装になっており、5枚が4袋入りで100円を切っていたので思わず買ってしまいました。昔ながらの安定した味わいで、間違いがない感じがしました。勤務前の3時のおやつにぴったりですね。お菓子を買うことなどなかったのに、なぜか近頃お菓子売り場に足が向いてしまいます。

最後の弟子

ホテルの仕事はフロント係を募集していたので応募したんだけど、だからと言って他都道府県出身でその土地に精通していない人間がいきなりフロントに立つのは無理である。チェックアウト時に、宿泊客は様々なことをフロント係に尋ねる。「ここから一番近いガソリンスタンドはどこか」とかはまだ大したことはない。

「JRで**まで帰るのだが何時の列車に乗ればいいか」くらいなら時刻表を見れば済むけれど、「経路はどれがベストか」ならばPCで乗り換え案内を起動して調べる必要がある。途中で乗り継ぎが悪くて時間が空いている場合、「**で時間つぶしをしたいが、どういう施設があるか」となることもある。

男鹿と当ホテルが旅の通過点である時は、次の予定は決まっているので問題はないのだが、男鹿と当ホテルが終着点である場合、宿泊客はただ帰るだけではなく、帰りがてらにも何か楽しい経験をしたいのだ。そんな時、気の利いたプラニングをさっと提案できるのと、「さあ」で終わってしまうのとでは雲泥の差がある。

このように、フロント係は当該地域とその周辺の広範囲にわたる詳細な情報もしくは事情を把握している必要があり、「関西から来た男」は「3ヶ月間は何でもしてもらいますよ」と面接の時に言い渡された。そして実際、ゴミの回収とゴミ出し、布団上げと布団敷き、風呂掃除、ハタキ(膳を下げた後の残飯の片付け)と何でもすることになった。

今だからこうして語ることができるが、8月に生ゴミと可燃ゴミの混合物を入れたビニール袋を野外に放置すればどうなるか、想像していただきたい。現実にはカラスもいるので放置するのではなく、周囲を囲った「ゴミ小屋」に捨てていくわけなんだけど、冷房装置などあるはずもなく、3日も経てばもう、ヤバいくらい臭ってくるんですね。

読んでいる方が食事をしながらではないことを祈るばかりだが、半径20mの範囲に臭いは拡散していると思う。で、扉を開けるともう……書けないですね。ある昆虫とその幼虫が数え切れないほどそこにいるわけ。当初は軽いめまいと吐き気がしたものだが、そのうち慣れてくる。このゴミ出しを、1日に3〜4回もやるんだから、もう……

布団上げと布団敷きを夏季にやると、ものすごい汗が出る。本当にものすごいと書いてもいささかも誇張表現ではなく、ハンパなく汗が出るのだ。ポロシャツの色によっては「びしょ濡れ」になるほど。3ヶ月間で体重が5kg以上落ちたので、「ちゃんとマンマ(ご飯)食べてっか?」といったい何人に言われたことだろう。

布団上げと布団敷きをきちんと出来、人に教えられるようになるには時間がかかる。特に、布団をビシッとキレイに敷くには技術の習得が必要である。私はヒヤマさんという人とコンビを組んで布団敷きと布団上げをよくやった。余裕のある時、布団敷きは二人で行う。頭の部分を上級者が、足の部分を初心者が受け持って行うのだ。

足の担当は頭の担当の動きをよく見て、動きを合わせるようにシーツを引っ張る。初心者は力を入れて引っ張るのだが、コツをつかんでいる人は軽くススッと引っ張るだけでキレイに仕上がる。たったそれだけのことだけど、ヒヤマさんは渋い顔をして何度もシーツを直していた。何も言われなくなったのは3ヶ月目に入った頃だったと思う。

とうとうある日、ヒヤマさんいわく「明日オレいねえからヨ、おめえ一人で敷くべ」となってしまったのである。「ここさ、こうやってヨ、な?」とヒヤマさんがまずやって見せ、できるだけその通りに真似をしてみると、「んだ、んだ」と嬉しそうな顔をした。昔の職人気質の人で、曲がった事ができない人だった。

人が見ていなくても、宿泊客が少なくても常にハイペースで仕事をするので、ヒヤマさんと組んでやる時は、いつも走って後からついていく形になる。私はよく叱られたほうだけど、いつしか「Tちゃん(私)が来てくれてヨ、助かってっぞ、ホントだべ」などと布団敷きをしながらホテルの昔話をしてくれるようにもなった。

3ヶ月も終わりが近づいた頃、「オレと組んでヨ、文句言わねえで済むのはTちゃんだけだべ」とヒヤマさんが言った。そして自分は年金をもらえる歳になったから、この冬で辞める、だけどTちゃんがいるから心配ない、という内容を口にした。いやそうじゃなくて、俺ね、この仕事すんの3ヶ月だけだから、とはどうしても口にできなかった。

3ヶ月が終わった11月から、私と数名のホテルスタッフは、秋田市内の某食品工場へ出張研修として勤務することになった。週末の夜だけホテルで布団敷きをするのだが、ヒヤマさんは「おっ、Tちゃん、来たか! よし、やるべ!」となんだかとても嬉しそうに見えた。11月いっぱいでヒヤマさんは来なくなったが、辞めたのではなく「休み」に入ったと聞いた。

そして4月。ホテルにヒヤマさんの姿はなかった。そして私も服装自由の裏方から、制服組の配属になった。もうヒヤマさんはいないのか、と寂しい気持ちになったけど、ちょっと待てよ、ってことは、布団をまともに敷ける人間、いないじゃん? Sさんという達人がいるけれど、Sさんが休みの日だけ制服を脱ぎ、私はヒヤマさんの最後の弟子として、布団敷きをしている。


【付記】
⚫︎ 宿泊客が少ない場合、一人だけで布団敷きをすることがありますが、20件以上になると厳しいですね。1件を6分間で終えたとしても2時間かかるわけですから。一部屋の宿泊人数にもよりますが、一人で3人部屋を5分以内に敷けたら、もうマスター・クラスでしょう。

プロフィール

只野乙山

Author:只野乙山

⚫︎ できれば「只野乙山=ただのおつざん」とお読みくだされば、と思います。

⚫︎ 文字中心のウェブログ。ほとんど一話完結で、どの記事をご覧になっても楽しめ(?)ます。文字数だけなら一冊の本に匹敵(凌駕?)するほどありますので、ごゆっくりどうぞ。

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