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『バッハ オルガン作品集』 Membran 10CD

Bach_OrganWorks_HelmutWalcha_Membran.jpg
ふだんはロックとかジャズを聴くことが多いのだが、ときおりふとクラシックが聴きたくなる。そんな折に手にしてしまうのがバッハ(J.S.Bach)である。クラシックはいわゆるバロックから古典派と呼ばれるころまでが好きで、ロマン派以降はあまり聴きこんでいない。いいものがたくさんある「宝の山」というのはわかっているのだが、つい、古いものに手が伸びてしまうのはどういうわけだろう。

今回は『J.S.Bach オルガン作品集』を聴いてみた。これは著作権の切れた音楽家の廉価版CDボックスを発売していることで知られるMembranの10CDボックスで、演奏者はヘルムート・ヴァルヒャ(Helmut Walcha, 1907-1991)。音源は1947年、1950~1952年にリューベックの聖ヤコビ教会とニーダーザクセン州の聖ペテロパウロ教会のパイプオルガンで録音された、とある。Membranものとしては珍しく音源のデータが明記されている。

ウィキペディアで調べてみると、ヘルムート・ヴァルヒャという人は16歳の頃に失明した盲目のオルガン、チェンバロ奏者で、バッハのオルガン作品を二度にわたって録音している。最初のものはモノラル録音で、次に1968~71年のステレオ録音を残しているが、前者は大半を録音したものの完全版ではなく、後者がバッハオルガン作品全集の完全版。Membran盤は古いほうのモノラル音源を収録したものである。

1947年とか1950年代初頭の録音と聞くとひどい音じゃなかろうかと思う人もいるかもしれないが、聴いてみると「へぇ」と思うくらいいい音で録音されていると感じる。MembranのCDはだいたい独自のノイズ・リダクションシステムを使ってデジタル・リマスタリングしているらしく、ノイズはわりと少なめになっているのだが、それにしても1940年代後半から50年初頭にしては巧い具合に録音したものだと感心する。

しかも今回はDDスピーカーというたいへん小さなスティック状のスピーカーで聴いたので迫力ある再生は望めなかった(なにしろ200Hzからだら下がりなので)が、耳障りにならぬ程度の、近隣に迷惑をかけぬ音量で部屋に流しておくぶんにはじゅうぶんではないかと思った。オーディオ的快楽を追求したい人はモノラル音源ではなく、最新のデジタル録音によるバッハオルガン作品を、大きなウーファーの付いたシステムで聴くのをお勧めする。

変な話だけどこういう低音が貧弱なスピーカーで聴いて耳がそれに慣れてくると、少し大きな小型2ウェイのスピーカー(ウーファーが16~20cm程度)を聴くともう低音の出方に感激してしまって、なんてありがたいんだ、もうこれでじゅうぶんじゃないか、これ以上何を求めるというのか、などという気分になってくる。この方法で私は自分の音響システムが肥大化するのを食い止めている(?)ともいえる。マニアにはなれぬ所以である。

CD一枚約70分、これが10枚セットになっているのだから通して聴くのは時間がかかるけれど、一日一枚か二枚、静かにのんびり聴くにはもってこいの音源ではなかろうか。衝撃的なイントロでだれもが知っている「トッカータとフーガ ニ短調 : BWV565」はもちろん、バッハと言えばこれ、ともいえる「小フーガ ト短調:BWV578」、そして外してはならない『惑星ソラリス』のテーマである「コラール前奏曲 : BWV639」もばっちり収録されています。


【付記】
一日一枚、みたいな感じでのんびり聴き、全部聴き通すのに一週間以上かかってしまいましたが、不思議と飽きることがないのです。それがバッハの魅力なんでしょうね。ヘルムート・ヴァルヒャという人の演奏は外連味(けれんみ)がなく、まことに素直な演奏で、カール・リヒターにも通じるものを感じました。この膨大な音源が2000円に満たぬわけですから、CDが売れぬとはいえまことにありがたい世の中になったものです。

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トスカニーニ・コンプリートRCAコレクション

Toscanini_RCACollection_01.jpg
アルトゥーロ・トスカニーニの大ファンというよりはむしろ「隠れファン」とでも言うべき程度しか聴いていない私(乙山)である。唯一の音源は1939年、ニューヨークのカーネギーホールにおけるライヴ録音で、NBC交響楽団で振ったアンドロメダ盤である。これはベートーヴェンの9つの交響曲と「レオノーレ」「エグモント」「フィデリオ」「コラリオン」などの序曲も含めたもので以前記事に書いた(「1939年のトスカニーニ」の記事へ≫)。

さすがに年代が古いためか録音状態はいま一つで、音の広がりなどに欠けるところがあるのだが、聴き進めていくうちにそのようなことはあまり気にならなくなっていくのが不思議なところだ。そしてひとたび古い音源に耳が慣れてしまうと、新しい音源がとてつもなく良い音に聴こえてくるというありがたいおまけまで付いてくる。これは1950~60年代の音源を好んで聴く方にぜひお勧めしたい方法で、その頃の録音がたいへん音が良く、ありがたく思えてくるのです。

トスカニーニで一番感心したのは『交響曲第9番 合唱付き』の第3楽章アダージョの美しさだった。たとえばフルトヴェングラーやカール・ベーム、ブルーノ・ワルターなどの指揮による『第9』のCDも所有していて、聴き比べることもあるわけだが、私が聴いたどの盤よりもトスカニーニのアダージョを気に入ってしまった。最終楽章の結び方も大袈裟ではなくたいへん好感が持てる。そんなわけで、いつか録音の良いトスカニーニを聴いてみたいものだ、と思っていた。

そんなところに、たしか今年(2012年)の1月中頃だったと思うが、HMVからの新譜案内にトスカニーニがあるのを見た。なんとCD70枚以上の膨大なRCA音源のコンプリート版だという。少し高めであるが、例の「マルチバイ特価」で1万円を切るようなので、この際だからトスカニーニをまとめて聴いてみようと、えいっ、と購入ボタンを押してしまった。これは今だからできることで、CD70枚以上にDVD付きなどというボックスセットは昔の感覚なら10万円以上は裕にしたはずである。

ところがその後、「メーカーより発売日が 2012/0*/** へ変更との案内が参りました」というメールが再三再四送られてくるようになり、1月に注文した「トスカニーニRCA全集」は5月になってもまだ発売される様子がなかった。もう半ば忘れかけていた5月の連休初め頃、「商品が揃いました」という知らせが入った。早速ネットバンキングで入金(これは本当に便利)したところ、5月3日、やっと届きました。

Toscanini_RCACollection_02.jpg全部で80枚を超えるCDだからどんな大きなものだろうと想像していたが、思ったほど巨大なものではなかった。以前記事に書いたドゥルッティ・コラムの4枚組CDボックスのほうがよほど「巨大」である(ドゥルッティ・コラム『Four Factory Records』の記事へ≫)。あれが英国流(?)か何か知らないが、とにかく笑わせてくれるセットだった。

それからすると本セットは実直で無駄がないように思った。CDも紙スリーヴを使って省スペースと小型化を図っており、英仏独の3ヶ国語解説のブックレットとマエストロ・トスカニーニのインタヴューなんかが収録されたDVDも入っています。早速聴いてみましたが、やはり音がいい。これは1939年のアンドロメダ盤に比べてのことで、今まで発売されたトスカニーニのRCA音源と比べてリマスターぶりがどうの、というわけではありませんので念の為。

では今日はこの辺で。えっ、CDの曲にかんして云々はないのか、という声もどこからか聞こえてきそうだが、今回はたんに「トスカニーニRCA全集を買いました」という報告だけである。この膨大な音源をたった一回の記事で終わらせてはなんだかもったいないじゃありませんか。かといって、じゃあ70数回トスカニーニで記事を書くのか、というのもなんだかなあ、という気がする。そのあたりは適当に、そのうちピックアップしてお届けする、ということで。連休じゃありませんか。のんびりいきましょうよ。


【付記】
とにかく驚くべき量のCDボックスセットです。世の中にはもっとたくさん収録したものもあるかもしれませんが、乙山が購入した中では最も膨大なものです。購入先にもよりますが、たぶんAmazonが最安値でしょう。値段と内容を考えると、トスカニーニのファンの方で、あまり音源をお持ちになっていない方はまちがいなく「買い」でしょう。

CDボックスセットというのは「あ、いいなあ」と思ったときに買っておくのがお勧めです。以前キング・クリムゾンの『グレート・ディシーヴァー』というラークス・タングズ・クリムゾン(1972-74)のライヴ音源を収録したボックスセットが出たときも、「そのうち買えるからいいや」と思っていましたが、今になって思うと本当にあのとき買っておけばよかったな、と悔やまれます。後年になって再販された『グレート・ディシーヴァー』を所有していますが、オリジナルとは別のボックスで、日本盤のオリジナルがやっぱりほしいですね。

グレン・グールド / リトル・バッハ・ブック

グレン・グールド / リトル・バッハ・ブック (1980)

GlennGould_TheLittleBachBook.jpg
a. ゴールドベルク変奏曲(アリア)
b. 6つの小プレリュード
c. インヴェンションとシンフォニア
d. パルティータ 第1番 変ロ長調
e. イギリス組曲 第3番 ト短調
f. 平均律クラヴィーア曲集
g. フランス組曲 第5番 ト長調
h. フゲッタ ハ短調
i. 9つの小プレリュード

以上からグールドが選曲、配置したものが収録されている。


「ながら」というのが苦手である。たとえば音楽を聴きながら読書をする、などというのは到底できない人間なのだ。いつだったか、食事をしながら映画を見るというような状況があって、同席している人に「映画をちっとも見ていないではないか」と呆れられたこともある。音楽を聴くなら音楽だけ、本を読むなら本だけ、というのがいちばんよい。だからといって食事で会話もできないのかというのはちょっと違うので念の為。

そんなわけだから、中学や高校の頃、ラジオの深夜放送を聞きながら勉強している、という話を聞いたときはちょっと驚いた。自分にはおよそできない離れ業をしている、と彼ら同級生に何か畏敬の念に近いものを抱いたほどだ。ラジオは語りの部分も多いので、ついそれらに耳を奪われて勉強がおろそかにならないのだろうか、自分だったらまずできないだろうな、と思ったわけだ。

聞いた話によると、脳には右脳と左脳をつなぐ経路のようなものがあって、一つのことしかできない(というか「ながら」が苦手な)人間は、その経路の交通がたいへん少ないのだそうである。「ながら」が得意な人は右脳と左脳の行き来が滑らかで回数も多いのではないかと思う。自分の脳はすでに硬化に向かっているのだろうか、などと思うのだが、苦手なものは仕方がない。

ウェブログのために書きものなどをしているときもたいてい音楽はかけずに行うことが多い。ただ、音楽関係の記事を書くときは別で、聴いた曲をもう一度確かめようとして再生することもあるが、思い返せばほとんど無音でひたすらキーを打ちこんでいることが多いのではないかと思う。

そんな私(乙山)だが、どういうわけかバッハの曲だけはあまり邪魔にならないような気がして、聴きながら書き物をするときもある。とくにオルガンとかピアノが延々と続くようなのがそういうときにはよくて、パブリック・ドメインとなった音源を集めた、Membranあたりの廉価版CDの10枚組『バッハ/オルガン曲全集』を買ってしまったほどである。

さてバッハと言えば、グレン・グールドの名前を思い出す。ロックばかり聴いてクラシックには見向きもしなかった私だが、なぜかバッハだけは許容の範囲に入っていて、バッハのレコードを買おうと思い立ったくらいだ。町の小さなレコード屋さん(当時はまだCDも、タワーレコーズやHMVなんてなかった)に入ってみると、少しだけクラシックのレコードが置いてある。

その中でピアノかオルガンだけのバッハを探すと、もうほとんど限られてくるんですね。なんかよさそうだぞ、と手にしたのがグレン・グールドだったわけで、グールドが他の演奏家とどう違うか、など少しもわかっていなかった。グールドの解釈が際立っていることなど、他の演奏と比べて初めてわかることで、初めからグールドを聞いたとしてもわかるわけがないのである。

後年、クラシック関係のCDがとても安くなった折にもとめた、他の演奏家によるバッハを聴いて初めて、グールドの演奏がいかに変わっていたかを知った。とにかく、速い。なんでそんなに速く弾くの、と言いたくなるくらい速いことがある。グールドを聞いたら他の演奏なんて聞けない、というほど熱を入れ上げたわけではない私は、端正な「ふつうのバッハ」を聴くのも好きである。

『リトル・バッハ・ブック』はグレン・グールドのレコード・デビュー25周年を記念して、それまで録音された演奏の中からグールド自身が選んで配置したアルバムだという。この選曲と配列がグールドのセンス、ということなのだろう。「ゴールドベルク」のアリア、やっぱり速い! とか思いながら聴いているとあっという間にCD一枚が終わってしまう感じだ。いまだにグールドの演奏の高尚さをいまひとつ理解できないけれど、グールド入門の一枚としてはいいかもしれない。


【付記】
CDのアルバムジャケットに写っているのは11歳のころのグレン・グールドだそうです。晩年はドラキュラ伯爵めいて(失礼)どこか不気味な迫力を漂わせていた(もっと失礼!)グールドですが、若いころの写真を見るととても素敵な青年ですね。

モーツァルト交響曲全集/ホグウッド&エンシェント室内管弦楽団

モーツァルト / 交響曲全集 ホグウッド&エンシェント室内管弦楽団(19CD)

Mozart_Symphonies_Hogwood.jpg
数年前、ネットでモーツァルトの交響曲全集を見たとき、これはほしいなあ、と思っていた。しかしCD19枚組み、お値段のほうは1万円を超えるもの。ちょいと、お高いじゃありませんか。だが、オーディオ装置になら平気で何万(数十万?)円もつぎ込める(いや、私=乙山はそんなにつぎ込んでおりませんよ)人間が、たかだか1万円を超える音源に足踏みするなんていうのはおかしなことではないだろうか?

高級装置は買ったものの音源がほとんどない状態と、そこそこの装置で音源がたくさんある状態とでは、いったいどちらが自分にとって幸福だろうか? そんな疑問を立て、自分にとっては後者のほうが幸せであろうという結論に達し、「マルチバイ値引き」というお得な販売キャンペーンを利用し(あるいは「マルチバイ値引き」という巧妙な販売戦略に引っかかり?)、半ばふらふらと購入してしまったんです。

私が買ったのは輸入盤のほうで、国内盤ではもう少し値段が高くなる。曲の解説などにコストがかかるためと思われるが、国内盤だと3万円を超えてしまうのだ。中身は同じなんだから、解説はもういいか、ということで何のためらいもなく輸入盤を選んだ。モーツァルトの熱心な愛好家や研究肌の人は国内盤を選んだほうがいいかもしれないが、私のようにただ聴くだけなら輸入盤でじゅうぶん、と思う。

MorzartCD_onPortableCDp.jpg箱の裏側を見ると、「交響曲第1番~41番に加えて、27曲の交響楽的作品、交響曲第31、35、40番の別ヴァージョンを収録」などと書いてある。さすがに19枚のCD全部をiPodに入れてしまうわけにはいかない。こんなとき、携帯型CDプレイヤーは本当に便利だ。ベッドサイドに持って行って、寝ながら聴くことだってできる。しかも、お得な副作用として(?)あまり聞き覚えのない曲(とくにクラシック)は猛烈な催眠作用があるのをご存知だろうか? これは、効きますよ。

指揮者はクリストファー・ホグウッドで、音楽学者でありながら演奏家でもある。この「モーツァルト全集」では古楽器を使うとともに、オーケストラの編成も18世紀当時に近い小さめにしてある、という。楽譜も初稿やそれに準ずるものを使用した、ということらしい。古楽器、と聞くとなにやら古めかしい雰囲気がするのだが、出てくる音はむしろ新鮮でみずみずしい感じさえする。

さすがに初期の交響曲は「これがモーツァルトだ」といわれても、「そうかなあ、わしにはようわからんけどな」という印象だけど、だんだん聴いていって第25番に来ると、おっ、これは聴いたことがあるぞ、となる。そして第35番(ハフナー)、第36番(リンツ)、第38番(プラハ)、とおなじみの曲が続き、第39番がくる。寝ながら、とはいえ、いちおうCD19枚、全部通して聞いてみたんですよ。

PortableCDPlayerGlassOwl.jpgモーツァルトの交響曲第39番はあまり馴染みがないのだが、なぜだか気になる曲で、すでにCDを持っている。マリナー/アカデミー室内管弦楽団による『後期五大シンフォニー』(The Last Five Symphonies)に収録されているのだが、収録の都合で39番は二枚のCDに渡ってしまっている。これがちょっと面倒で、いつも何とかならないかなあ、と思っていた。これではLPレコードを聴く資格なんてない、といわれても仕方ないが、面倒なものは面倒なのだ。ホグウッド版全集ではそれが一枚のCDに収録されているのがうれしい。

第40番、41番は人気も高く、演奏もたくさん出ているのだけど、私がいまのところいちばん気に入っているのはワルター/コロンビア交響楽団によるものだ。このコンビの演奏をいまいちだという人は少なからず存在する。だけどまあ、いいではないか。ワルター/コロンビア盤と比べてどうかと思ったが、そんなに気にせず聞くことができた。これはこれ、あれはあれ、という感じでどちらの演奏もいいのではないだろうか。

初期交響曲にはモーツァルトらしさがはっきりと表れていない(たぶん私がそれを聴き取れないだけかも)ように感じたが、聴き込めば次第にわかってくるかもしれない。腑に落ちるわけでもなく、ただ聞き流しているだけでも気持ちがよいのはさすがモーツァルト、やはり古典派、という思いがする。録音も1970年代後半から始まっているので、途中でデジタル録音になっていて申し分ないと思う。値段が値段だけに、強くお勧めするわけではないが、買ったとしても損害を被ったという思いにはならないだろう。


【付記】
現在使っている携帯型CDプレイヤーはもう、かれこれ10年以上使っています。乙山が忌み嫌う(本当に壊れやすいですからね。信用できません)あの「トレイ」方式でなく、トップローディングというのが気に入っているのです。さすがに冬場になるとローディングエラーを起こすことがあって、大丈夫かな、と心配になります。もうそろそろ、ソニー最後の携帯型CDプレイヤーでも買って、CDプレイヤー不毛時代に備えようかな、なんて考えてみたりしています。

エリック・サティ 『きみがほしい……サティ』

エリック・サティ 『きみがほしい』/ フィリップ・アントルモン(p)

Satie_JeTeVeux_Entremont.jpg
1. きみがほしい
2. 金の粉
3.ジムノペディ第1番
4.ジムノペディ第2番
5.ジムノペディ第3番
自動記述(6~8)
6.船の上で
7.ランタンの上で
8.カブトの上で
気難しい気取り屋の3つの高雅なワルツ(9~11)
9.彼の格好
10.彼の眼鏡
11.彼女らの脚
12.グノシェンヌ第1番
13.グノシェンヌ第2番
14.グノシェンヌ第3番
太った木の人形のスケッチとからかい(15~17)
15.トルコ風のチロル舞曲
16.やせた踊り
17.スペイン
最後から二番目の思想(18~20)
18.ドビュッシーへの牧歌
19.デュカへの朝の歌
20.ルーセルへの瞑想
21.ノクチュルヌ第1番


むかしブライアン・イーノ関連の情報を追っていたとき、ジョン・ケージと並んで出てきたのがエリック・サティだった。また、ジョン・ケージにかんする本を読んでいると必ず出てくるのがサティなので、どんな音楽家なのか非常に興味を持っていた。だが、当時私(乙山)はロック音楽を主に聴いていて、ジャズをかじりかけたばかり、クラシックなどほとんど聞いていない状態だったので、興味はあるものの別に聞かなくてもいいか、とほったらかしにしていたのがエリック・サティだった。

サティにかんする思い出。あれはたぶん1985年ごろだったと思うが、つくば市で「科学万博」というイベントが開催された。そのときダイエーが出展した際の副産物だと思われるが、戸川純朗読による『詩人の家』という変わったLPレコードが発売されていて、どういうわけかそれを買い求めた。

当時、戸川純は変な格好(失礼)で変な歌(失礼)を歌って一部の人(と思う)に人気があったのだ。友人たちの中でもわりと「とんがった」奴が戸川純に熱を上げていた(当時ふつうの男子なら、松田聖子のファンが多かった)ので、彼に一泡吹かせてやろうという魂胆だった。

戸川純が谷川俊太郎の詩を朗読するのだが、その背景に流れている淡々としたピアノ演奏を聴いて「これはいいな」と思った。それがサティの「ジムノペディ」だった。エリック・サティと意識して聞いたのはそれが初めてだったと思う。サティのCDを買ったのはそれからしばらくしてからである。それが『きみがほしい……サティ』で、演奏はフィリップ・アントルモン(p)による。

(1)(2)は親しみやすいワルツ。(3)がサティの中ではよく知られた曲で、テレビCMにもしばしば使われているのでお聴きになった方もいるのではないかと思う。とにかく変わった題名が多いので、どんな曲かなと変な期待をするのだが、意外と「まとも」な音楽である。楽譜の書き方も独特で、拍子記号や調号を用いずに言葉による指定をするなど、変わったことをするのが好きな人のようだ。だから演奏者によってずいぶん違ってくるのかもしれない。

(6~8)での自動記述(オートマティスム)というのは、眠りながら、または半覚醒状態においてペンをとり、その進むがままに任せて記述するというシュールレアリズム的手法を、作曲で実践したものだと思われる。長時間連続して行うことはできないのか、いずれも2分以内の短い曲になっている。(8)などはユーモラスな感じで、ピアノを聴き続けて眠くなったときに起こしてくれる効果も期待できそうだ。

このCDに集められた曲は、サティの中でも親しみやすいものを選んでいるのではないかと思う。繰り返しが延々と続く「ヴェクサシオン」など聞いていて好きになれない曲もサティにはたぶん多いのだろう。サティ自身がそれを狙っていたのだから、当然聞く側もうんざりしてしまうのだろうけど、このCDなら大丈夫。客人がいるときにリビングルームで再生しても不快にはならないと思います。


【付記】
Satie_JeTeVeux_Shimada.jpg
このジャケットとそっくりのものが発売されていて、間違いそうになることがあります。収録曲も少し違っているようで、(8~10)に「オジーヴ第1番~第3番」、(14)に「ヴェクサシオン」が収録されており、その演奏者は島田璃里とあります。その他はアントルモンの演奏になるようで、こちらも面白そうです。

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只野乙山

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⚫︎ できれば「只野乙山=ただのおつざん」とお読みくだされば、と思います。

⚫︎ 文字中心のウェブログ。ほとんど一話完結で、どの記事をご覧になっても楽しめ(?)ます。文字数だけなら一冊の本に匹敵(凌駕?)するほどありますので、ごゆっくりどうぞ。

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